緑雨

シンドラーのリストの緑雨のレビュー・感想・評価

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
4.5
現代を生きる我々が当たり前のように享受している「理」(理性、論理、理屈、義理・・・)。ここでは「理」はなんの力も持たず、圧倒的な暴力の前に完全に屈服している。唯一それに対抗する手段は「金=Money」であった。

リベート、賄賂・・・あらゆる道を金の力で切り開いていくシンドラーを批判することはできない。当時、あの状況下で個人がイニシアティブを保持し続けるために使うことを許された武器は他には存在しなかったのだから。暴力、金の力、「力」のみが意味を持つ世界。このような想像するにも恐ろしい世界が歴史上確かに存在した。そして現代を生きる我々も一歩間違えればそこに陥る危険性を常に内包していることを、今まさに思い知らされている。

もう一つ。彼のような状況に置かれた人間の多くが(私も含め)唱えるであろう言い訳「これだけ多くの人間が殺されているのに、ほんの一部の命を救ったって大勢に影響ない」。彼はその言い訳に埋没することなく足を踏み出し続けた。その姿には人が「どのように生きるか」についての重要なヒントが込められている。

この映画がホロコーストを憎み、ユダヤ人の悲劇を哀悼することを主題としているのは明白である。だが、それだけではない。人間という生き物が潜在的に有している危険性、そしてそれを自ら克服していく可能性。人間の本質について深く考えさせられる。この作品もまた「力」を持っている。
緑雨

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