ゆうぴょん

羊たちの沈黙のゆうぴょんのネタバレレビュー・内容・結末

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 見直してみると、やっぱりすごく豊かで、なんて雰囲気のある映画なんだろうってことに、改めて気付かされる。心理サスペンスとされたジャンルの、新しい黎明のような映画だと思った。
 クラリスの幼少期の傷つき、トラウマ、犯人の歪んだこころ、そういうものが一体になって、この映画を形作っている。昔みたときは「子羊の鳴き声がなんやねん」って思ってたけど。でも、それってクラリスの心理的な投影で、ほんとはもっとこころのふかいところを抉られた体験で、ただの子羊の声だけじゃないなにかをクラリスに刻み込んだものだと今更ながら気づいた。たしかに、それは人から見ると取るに足らない出来事であっても、そのときのじぶんの気持ちとか、これまでの積み重ねとかで、ものすごく意味を持ってしまうことがあると思う。それはこころのなかで、誰にもわかってもらえないと諦めながらも、たしかに暗い影を落としながら、自分のこころのなかにしまい込まれている。あの瞬間、クラリスはレクターに理解されてしまったんだろう。そして、切れ得ぬ縁ができてしまったのだと思う。そういう、妙な手触りの悪さというか、気持ち悪さみたいなものが、この映画を不朽の名作にしているのだと思った。
 いま、ほとんどの映画の中で扱われるトラウマって、もちろん作品の中のリアリティで言えばの話で現実とはちがうけど、重大な出来事すぎて、ぜんぜんリアリティがなかったり、驚きがなかったりする。酷いこと、悲しいことを、「悲しい」「酷い」とそのまま描くのは、すこし直接的すぎるというか、こころの世界に迫ってない。こういう、人には取るに足らなくても、そのキャラクター固有の意味があるエピソードや出来事が、実はすごく物語を複雑にして、映画をより深くしていくのだと思った。
ゆうぴょん

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