来夢

ヴァンパイアの来夢のレビュー・感想・評価

ヴァンパイア(2011年製作の映画)
4.2
吸血鬼ものの多くは大切な人を傷つけることへの葛藤だったりを描いているけれど、これはそれらとは全く違い、自殺希望者とネットで知り合い同意のもと殺害するっていう、本当に殺人事件として近年もあるものを描いている。
いくつかのヴァンパイア(主人公)によってもたらされる「殺人」を除いた「自殺」については、決して自殺を美化しない描き方がされていて、死の描写がいわゆるミステリーで描かれる美しさではなく、吐き気がするくらいに死を感じさせられてとにかく気持ち悪いし胸くそ悪い。一方で主人公による「殺人」については美しい表現もされていて、これは単純に 自殺幇助=悪 と言い切れない問題がこの映画(現実)にはあるからこその表現(法的には悪として描かれている)で、そこについて否が応でも考えさせられるようにできている。自殺と殺人に限らず、相反する2つの事柄って実は同じものだったりするんじゃないかなってことが見えてくる。なにかを与えることとなにかを得ること、重さと軽さ、正義と悪、生と死とかね。結局それらに表裏をつけるのは個々の意思だったり法やルールっていうだけなんだよね。醜さも美しさも、観る側が勝手に基準を作ってるだけで、同じ死であることには変わらないわけだ。なかなかに恐ろしい映画だなって思います。
作風は、海外ロケで英語のみだけれど邦画特有の邦画っぽさ(なんだそれ)があって、どっからどう見ても岩井俊二映画でした。そこら辺は好みがわかれそうなところ。監督インタビューではわざとそうしていると語っていました。たしかに日本を代表する映画監督が洋画に媚びて洋画っぽく撮ったら、それは邦画そのものの敗北ってことだもんな。納得。

初回鑑賞劇場:シネマライズ
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