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エンド・オブ・バイオレンスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 吊り下げられた女性が語る「暴力を定義してみて」の問いに共演する俳優はおろか誰も明確な答えを出せないまま、ワイヤーで固定された女性は引っ張り上げられる。だが次の瞬間、想定外の爆発が起こり、顔が命のはずの女優は頬に裂傷を負う。彼女をクローズ・アップで捉えていたはずのカメラは爆発の瞬間、撮るべきサイズに迷いながらズーム・アウトしていく。『シーズ・オブ・バイオレンス』という名前を冠した映画のプロデューサーのマックス(ビル・プルマン)は現場にはおらず、専ら美しい海に面したマリブの別荘で仕事にあたる。彼の仕事はPCの前で秘書とメールで連絡を取り合うのみで、映画プロデューサーでありながら撮影現場には殆ど関与しない。まるで『ことの次第』の映画プロデューサーのように芸術を金に換金する錬金術師のような男である。そんな彼の様子に妻のペイジ(アンディ・マクダウェル)は愛想を尽かし、彼と別れたがっていた。ある日、マックスは突然、2人組の男に誘拐・拉致されてしまう。ロス全体を見渡せるFBIの監視システムの開発者のレイ・べリング(ガブリエル・バーン)はマックスが暴力を受ける映像を目撃するが、そのシステム自体が停止し肝心な暴力場面が映っていない。刑事のドク(ローレン・ディーン)は行方不明になったマックスと事件の調査を開始する。

 ここに在るのは正しい距離間の喪失だけだ。責任ある映画プロデューサーは女優のケガの様子を遠く離れた場所からモニター越しに確認する。また一方でロスの街には暴力を抑止するためのシステムが秘密裏に開発され、様々な場所に設置され盗撮されているが、目撃者としての彼の視線は暴力が行われた場所とは遠く離れた場所にある。さながら今作のマックスとレイとは『ベルリン・天使の詩』の守護天使のように地上で起きた出来事を俯瞰で見ているのだが、四角いフレームの中で行われていることはあくまでフレームの中しか見えない。それぞれの地点を目撃したところで、システムが張り巡らされないところでは無秩序な暴力がはびこるのだ。それを知覚したマックスはフレームの外へ出ることで、巧妙にFBIの監視の目から逃れる。デスクの前で眺めていた時に全て把握していたはずの彼らの知覚は、対象に近付くことで異なる様相を呈する。国家の陰謀の円周をぐるぐると周るそれぞれの内に秘めた思い。映画プロデューサーの後釜には曰く付きの人物が座るし、暴力を抑止するシステムを作ったレイ・べリングもまた、国家に監視されている。暴力の恐怖に怯えたキャット(トレーシー・リンド)はポルノの渦の中で新しい役柄と恋人を見つける。国家に命を狙われた主人公を中心に据えながらも、50年代のノワール・サスペンスのように真相は靄に包まれたままだ。
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