みかんぼうや

江分利満氏の優雅な生活のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

江分利満氏の優雅な生活(1963年製作の映画)
3.8
戦後の高度経済成長期の中、サントリーの宣伝部で働くしがないサラリーマン江分利満(えぶりまん)がひょんなことから徒然なるままに自分の自叙伝的な内容を書く、という話。

岡本喜八監督は好きな監督の一人ですが、最近は「ダイナマイトどんどん」や「近頃なぜかチャールストン」など、その背脂たっぷりのドタバタな作風にやや食傷気味で、個人的に外れ作品が続いていましたが、本作は久しぶりにかなり楽しめました。

内容としては、作中の8割は江分利満氏がただ自身の平凡なサラリーマン生活や今の社会への思いをつらつらと語る。本当にそれだけ。なのに、それがとても面白く見えるのは、テンポよくウィットに富んだ語り口と、喜八監督ならではの独特な撮影の構図によるものが大きいでしょうか。

ただの一人のサラリーマンのくだを巻いたような話が、動きあるダイナミックな話に見えるのはさすが。しかし、喜八監督の他作品に比べるとドタバタ感は控えめで、食傷気味になっていた私にはちょうど良い塩梅でした。

しかも、この時代に観ると、現在の日本人サラリーマンの生活や感覚と、高度経済成長突入時のサラリーマンのそれを比較して観られるのも面白い。「映画は時代を映す」と言うのに象徴的な作品だと思います。江分利満氏が押し寄せる欧米化の波にもがくあたりも垣間見えて、そのあたりも喜八節健在。

久しぶりに喜八監督の色を真正面から楽しむ事ができ、個人的にちょっとホッとした作品でした。
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