綾

レナードの朝の綾のレビュー・感想・評価

レナードの朝(1990年製作の映画)
5.0
午前十時の映画祭にて。数年前に観たときよりずっと響いて、スクリーンで観られる機会を本当にありがとう…… と思いながら。

レナードやみんなのことを考えると、人を人たらしめるもの、幸福とは、生きるとは…… って頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』とかもそう。永遠のテーマやね……
今の私にはとても答えられないし、簡単に答えられてたまるかとも思うけれど、ふと『夜明けの祈り』で出会った「信仰とは24時間の疑いと一秒の希望」という言葉を思い出していた。その言葉になぞらえて、人生とは24時間の痛み苦しみ煩わしさと、一秒の希望なのかもしれないって。レナードが真夜中に「大発見だ!」ってなったような爆発的な希望、たしかに私も知っていて。生きていると時々、こうして今地球に存在しているだけのことが泣いちゃうくらい奇跡のように思える瞬間がある。生まれてきて、生きていられて、よかったーー!って、心の中で叫んでしまうような瞬間が。もうそれだけで、そういう瞬間が時々あるだけで、十分なんじゃないかとも少し思った。

私もセイヤー先生のことが大好きけど(ロビン・ウィリアムズの人の心を溶かすような笑顔も相まって)、やっぱり研究段階の薬をあんなに投与していいんかな、とは思ってしまう。誰より患者を「人」として尊重するセイヤー先生にも、純粋な好奇心というか、どこか科学実験のように患者に薬を投与している側面が(とくに序盤は)ないとは言えないよねって。そこを誤魔化してはいけないと思う。やっぱり人というのは複雑で、これをただの美談としてしまうのには危うさがある。そういう意味でも、難しい作品やね。

眠っているのはあなたの方だ、私にも突き刺さってしまったな……

風のにおいを感じ、喜びやかなしみを目一杯表現し、思い悩まず、ただ今この瞬間だけを生きている。今膝の上ですーすー眠っている愛犬を見ながら、ふと、かれらの方がよっぽど賢くこの世界に存在しているような気がした。だけど同時に、私たち人間の複雑さがいとおしくもあるなあ。

またまだ分からないことだらけ。ずっとずっと考え続けていきたいね。
綾