主演の仲代達矢が、もし死ぬ時にマイベストを選ぶならこの「切腹」と仰ってました。
新劇俳優としてどの映画会社にも所属せず、しかし日本映画の黄金時代を生き数々の名作に出演してきたご本人が選ぶというのなら…と期待しましたが。
噂に違わぬ名作!
撮影時、仲代達矢は29歳。
座る姿、走る姿、そして丹波哲郎との真剣を使った殺陣。
凄まじい迫力と存在感。
切腹というのだから、武士道精神の美学の物語かと思いきや、そんなナルシズムではなく、むしろ武家社会へのアンチテーゼなお話でした。
脚本が秀逸で、回想と共に明らかになる事実と、暴露される武士の虚飾と虚栄心。
一介の浪人、津雲半四郎(仲代達矢)と井伊家の家老斎藤勘解由(三國連太郎)の掛け合いが見ものです。
カンヌ映画祭では切腹シーンに気分を悪くして倒れてしまう淑女が続出。
作品賞間違いなしとの前提で自信満々で受けたインタビュー、なのに受賞はヴィスコンティの「山猫」に!
祝賀パーティーに予約していたレストランではなんと横のテーブルに山猫チームのヴィスコンティやアラン・ドロンたちが来て盛り上がっており日本スタッフたちはお通夜状態だったとか。笑
世界的な賞は当時大映作品が多かったので、松竹としてはなんとか欲しかったでしょうね…特別賞は貰ったものの、みんなショボーン。
でもこれって西洋に理解出来たのかな?
髷切り取られちゃう意味とか。
どうなんでしょう。
いつの時代も持つ者と持たざる者がいる。
落ちぶれた者への想像や慈悲もなく、嬉々として追い詰める姿は単なる弱い者イジメにしか見えなかった。
主人公の捨て身の復讐心、作品の世界観を表した見事な劇伴と城内部の美しいカメラワーク。丹波哲郎との対決も凄かったけれど、大人数での立ち回りも素晴らしかった。
そしてラスト、虚しく響き渡る井伊家覚書の朗読に、昔も今も何も変わらないと思うのでした。