Ricola

越前竹人形のRicolaのレビュー・感想・評価

越前竹人形(1963年製作の映画)
3.7
きめ細やかなうろこ雲に、雪の積もった竹林、晴れた日に風がそよめく木々。
霧がかって灰色のうっすらとした膜がスクリーンを包み、墨色の竹林など、重々しい雰囲気である。
美しくも厳かな風景のショットに、心のどこかがゾワゾワするような感覚を覚える。
それはこの作品が悲劇であるということを、風景描写が我々に訴えかけてくるからだ。

端的に言えば、お互いの葛藤ゆえにすれ違いが生じて起こる悲劇なのだが、相手を思うがゆえに率直に伝えられないもどかしさがなんとも心苦しいのだ。


竹人形職人の若い男喜助(山下洵一郎)は、すでに他界した父の後を継ぎ仕事に励んでいる。
その父にお世話になったという玉枝という女性(若尾文子)が彼の元を訪ねてくる…。

冒頭に触れたように、やはりショットの美しさは風景全体を捉えた際に際立つようだが、そういった全体的な視点のみならず、細部にも目を当てていきたい。

例えば、喜助の商売道具である竹。
竹を切る音、擦り合わせる音。
喜助の葛藤が、彼の仕事ぶりに大いに反映される。人生そのものはなかなかすんなりいかなくても、竹を切って成形していく作業はすっと刃が通っていく。

そして傘。降る雪がびっしり積もった傘を真上から映したり、干してある傘が並んでいる様子が映ったり。玉枝は外出の際に傘をさすことが、どうしても多くなるのだ。

若尾文子の色香。やっぱり若尾文子は人を狂わす魅力があるというのが、納得いくような配役である。
彼女の真っ白な肌が、暗い竹藪のなかではまるで光っているようである。触れてはいけないと思わせるような美しさを感じる。
親しみやすいキャラクターを演じることの多い彼女だが、この作品では神秘的な美女という役柄がしっかりはまっている。

まるで日本画のような美しいショットの数々に、それを構成する竹や傘などのモチーフが活かされた的確な演出、そして若尾文子にしびれる作品だった。
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