にしやん

サウダーヂのにしやんのレビュー・感想・評価

サウダーヂ(2011年製作の映画)
3.9
山梨県甲府市を舞台に、土木作業員、ラッパー、在日外国人達を中心に、地方都市の構造変化とディスコミュニケーションに直面する人等を俯瞰的に描く群像劇や。

それまで(映画の公開が2011年やからその当時まで)の歴代の政権の主要政策、例えば橋本内閣による大店法廃止やとか、小泉内閣による構造改革(公共事業削減、派遣法緩和)とかによって、地方都市が現実としてどういう結果になってしまったんか、どのように破壊されたんかについて克明に描いとるわ。これはほんま歴代の政権の失策やって。それらの失策でやな、この国の特に地方がどないに酷いことになってるんかっちゅう話や。

この映画、ほんま凄いなと思た。この映画が優れているところは、監督の出身地である山梨県甲府市を描いているにも関わらず、作品の中に映しだされる中心街のシャッター通りや土木作業の現場風景は、まずは人ではなく街であり、日本のある地方都市を切り口にして現代の日本の地方全体を覆う、普遍的かつそこの住民皆が目の当たりにしている多くの様々な現象を、まさに殆ど余すことなくえぐり出そうとしてるとこや。そこに描かれている現象というのは決して単純なもんではないし、大変多くの現象が非常に複雑に絡み合ってるわ。

まず描かれているんは街の惨状や。まず、地元に残った若者たちにまともな働き場所がなくて、出稼ぎに来た外国人たちの働く場所はもっとない。人通りのまばらな中心街、シャッター通り、土木・建設業の大不況、出稼ぎ日系ブラジル人労働者、若者の派遣労働・非正規労働の常態化、自己破産、中産家庭の崩壊、パチンコ依存、若者の引き籠り・メンヘラ、出稼ぎタイ人ホステス、日本人コミュニティーと外国人コミュニティーとの軋轢、派遣労働者の雇い止め、怪しげなマルチ商法、ドラッグ汚染、はびこる風俗産業、子供を作らへん夫婦、若者の右傾化、ヘイトクライム等々。ほんで全く何も分かってへん空っぽの政治家、もう挙げ出したらキリないわ。

それともう一つは家族の崩壊。大不況に襲われている下請けの下請けの土木作業員と元キャバ嬢で現在はエステシャンの夫婦。夫はタイ人ホステスにはまり、妻は怪しげなマルチ商法にはまっとる。片や派遣で土方として働き始めたラッパーは、両親は自己破産してパチンコ依存症、家庭はとっくに崩壊して殆どゴミ屋敷、弟はメンヘラで引き籠り。目も当てられへん状況や。それに、家族以外のコミュニケーションかて酷いことになってる。友人、同僚、客とホステスでさえ、コミュニケーションなんか全く成立してへんし。殆ど皆、驚くほど自分のことしか考えてへんな。

この映画、主人公は誰やねんと聞かれたら答えに困る映画や。人を描くんやのうて、街の現実そのものを描こうとした映画や。複雑に絡み合ってるもんを捉えるようとして、群像劇という手法を取り、その上でひとりひとりの抱える物語を解決してしようということは決してせんと、とにかく「こういうことになってねん」ってわし等に投げつけてくるんや。

終盤のほうで、在りし日の活気に満ちた商店街を歩く土木作業員とその脇を走っていく暴走族のシーンが秀逸や。バックに流れるBOØWYの「わがままジュリエット」と、日本人やブラジル人が歌うHIPHOPとの間に横たわる時間、それこそがまさに日本の「失われた20年」を象徴しとう気がして、めちゃくちゃ印象に残ったわ。

「この街ももう終わりだな」ってセリフがあったけど、ちゃうよ。もう終わりなんはこの国やって。エンドロールやけど「バンコクナイツ」にもつながってるんやなと感じたんと同時に、わしにはもう終わってしもてるこの国への最高の皮肉に見えたわ。日本の貧困を描いた映画としては、これはほんまによう出来てるで。日本「ディストピア」映画の傑作やな。
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