にしやん

帰れない二人のにしやんのレビュー・感想・評価

帰れない二人(2018年製作の映画)
3.8
裏社会に生きる女と男の18年間にわたる関係を山西省、長江流域、さらに新疆にまで至る壮大なスケールで描いたロマンティック・ノワールやな。「長江哀歌」でヴェネツィア金獅子賞、「罪の手ざわり(中国未公開)」でカンヌ脚本賞を受賞した中国の巨匠ジャ・ジャンクー監督の最新作や。

2001年から2018年に亘る18年間の中国社会の激変を背景にした女と男の成功と転落と別れといった愛の変遷、もっと分かりやすうに言うたら女と男の「腐れ縁」が描かれてるわ。文化や習慣の違いかどうか知らんけど、結構意味分からんとこもあって、それも含めて芸術性とシュールさを兼ね備えた先が読めへん話になっとるわ。

ドラマ自体はなんか地味やし、テンポも悪いし、ハラハラドキドキするもんとかもあれへんねんけど、なんかどっか人を惹きつけるもんがあって最後までちゃんと観られたわ。この監督は今まで一貫して中国の地方の比較的小さい街やそこに住む労働者を主人公にしてきたんやけど、本作では地方マフィアを主人公にすることでノワール要素が多少加えたからやろな、その面でのおもろさがアップしとうわ。

メインとなるテーマは、マフィアのボスのビンと、彼の愛人のチャオの関係性やねんけど、それだけや無しに、二人の周囲の大きく変わりゆく中国の風景と状況なんかも哀愁を込めて描いてたりもしてて、その辺はごっついリアリティー感じるわ。わしがええなあと思たシーンは、チャオとビンがホテルの部屋みたいなとこで再会するシーンや。二人の会話の間合いが絶妙で、それもワンカットの長回しや。なんかしみじみしてしもたわ。

こういうシリアスなシーンがあるんかと思たら、意味不明のシュールなぶっ飛んだシーンがあるんもこの映画のおもろいとこや。マフィアの葬儀で生前に故人の親分が好きやったダンスを見せようと男女のダンサーが正装で登場して土の空き地で急に「CHA-CHA-CHA」でペアダンスを踊り始めたりとか、ミュージシャンが路上で虎とライオンの猛獣と一緒に、トラックの荷台にバックダンサー乗せて歌って踊ったり、彼等が結構真剣にやってて思わず吹き出してまうわ。多分監督分かて分かっててやってんのやろ。中国の地方のこの微妙なダサさがおもろい。

それと、これも意味不明やねんけど、夜行列車の車内のホラ吹き男のエピソード。このあたりはネタバレなるから言わへんけど、夜行列車からその後に至る展開もシュールで意味は分からんけど、こういうんも遊び心があってええと思うわ。シリアスとシュールの匙加減みたいなもんが、この監督は実に巧いわ。

この監督の過去作の「長江哀歌」でも、音信不通の夫を本作と同じチャオ・タオ演じる女が探しに行くって話やったけど、本作もその流れは同じ、探しに行った結果も同じ。ほんなら本作は何がちゃうって、二人のその後、現代の姿が描かれてるわ。多分監督は本作で「長江哀歌」の結着を付けたかったんとちゃうかな。

このオマケの現代編やけど、まあこの中国の時代の変化、風景の変化っちゅうんは映像で見たかてホンマにとんでもないな。監督にしたら、「長江哀歌」で自ら退いた女の本心を最後に描きたかったんやろ。どないなったかについては、これもネタバレなるさかい書かへんけど、ラストの「防犯カメラ」の無機質さが悲しいな。現代の中国の哀しさ、空しさを象徴するようなオチやわ。

色々意見はあるかもしれんけど、オマケの現代編については、やりたいことは分かるし、言うてる意味は分かるねんけど、あまりにも現実的というか、身も蓋もないというか、正直ちょっと白けてしもたかな。「あー、そんなもんやろな」ってな。あらためて思たわ、現実って残酷で味気ないもんやな。
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