Habby中野

1999年の夏休みのHabby中野のレビュー・感想・評価

1999年の夏休み(1988年製作の映画)
4.2
1988年に公開された「1999年の夏休み」を2018年に銀幕で観た。
忘れられない、「あの夏休み」。時は経れども、思いはその時を拠点に巡り伸び続ける。近未来を描いた、時を超える「SF」ではなく、11年後も今と同じ時が響いているのだという地続きの現実への訴え。
少女が少年を演じることをよく言われる作品だが正確にはそれだけではなく、この映画には「男女」という概念がそもそも存在していない。身体が女で名前は男、その表象の靄の下にはただ人間をそのまま人間と捉える視線がある。あまりにも繊細で嘘のように思える彼ら(彼女ら)の愛はただ恋愛ではなく、何の覆いもない、正直な魂の惹かれあいだと思う。そしてそのための他の排除の描写。あの強烈な逆再生ドリーと、姿のない騒声。どこともない山中の学院。他者もない、時もない、身体もない魂だけのその夏休み。作意の真直さと描写の巧妙、ロケーションの神秘が、池の底に沈んだ身体と共に永遠の詩の朗読となってあの夏の窓に張り付いたまま、30年経っている。
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