TAK44マグナム

セルラーのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

セルラー(2004年製作の映画)
4.8
この通話が切れたら終わり!

キム・ベイジンガーとクリス・エヴァンスが主演の携帯電話を小道具として活用したサスペンス・スリラー。
原案がラリー・コーエン御大です。
コーエンと言えば、古くは「悪魔の赤ちゃん」や「空の大怪獣Q」、「地獄の殺人救急車」、「マニアックコップ」などなど、木曜洋画劇場御用達みたいな映画に携わってきたお方ですが、近年は何と言っても「フォーンブース」の脚本として知られています。
「フォーンブース」は公衆電話を小道具としたサスペンス映画で、コリン・ファレルが謎のスナイパーに狙われて、公衆電話ボックスから動けなくなってしまうというお話でした。
とても良く出来た映画で、主人公の本性がさらけ出されるところにコーエン節が効いていたのですが、ラストがあまり好きになれなかったし(スリラーとしては正解な締め方だとは思いますが)、舞台が電話ボックス周辺だけだと、やはりどうしてもあまり動きの無い映画だと感じてしまった事もあって個人的に評価としては普通でした。
そこで本作ですが、同じく電話を重要な小道具に使っていますが、こちらは携帯ですので移動が可能。なので、刻一刻と変わってゆく様々な状況下で主人公たちが必死に行動することになり、必然的に動的な映画になっているんですね。
そして、非常にユーモアに溢れていて、気の利いた台詞も多く、適度な尺でテンポも軽快とくれば、アクビが出る暇もないほど、のめり込める要素が満載です。

ある朝突然、夫と息子と共に幸せに暮らしている生物教師のジェシカ(キム・ベイジンガー)が、家に侵入してきた数人の賊に誘拐されるところから話は始まります。
監禁された部屋には電話機があったのですが、犯人のひとり(ジェイソン・ステイサム)に破壊されてしまい使用不可能に。
しかし、教師としての知識があるジェシカは導線を接触させて何とか電話をかけようとして成功します。
ただし、かかった相手は、ビーチでナンパにふける脳天気な若者のライアン(クリス・エヴァンス)でした。
ジェシカは、どうにかしてライアンに電話を切らずに協力してもらえるように自分の状況を訴えるのですが・・・

こんな出だしで始まる物語は、まさにジェットコースター。
誘拐事件の事実を理解したライアンの必死の救出劇が始まってからは息つく暇もないほどのハイスピードで話が展開します。
これがまた練られた脚本で、ジェシカの息子を救おうとする→今度は旦那を救おうとする→最後には一家全員を救おうとする→ついに犯人一味にライアンの正体がわれて絶対絶命に!という段階を踏むわけですが、そのどれもに数々のハラハラドキドキを生み出すアイデアが活かされていて、とにかく終始、「これはどうなってしまうんだろう!?」と、観ているこちらが緊張し続けるように計算されています。
緊張ばかりだと疲れるからか、合間合間には、ちゃんとクスっと笑える場面も入れ込んであって本当に感心しました。
携帯が切れたら二度と繋がらないわけで、充電や電波障害、混線などの危機にも対処しなければならないのも面白いです。

演出も冴えていて、余計なものは削ぎ落としているのでダレる事もなく、それでいて非常に内容が濃密なので、尺が90分ちょっとの割には観終わるともっと長かったようにも感じました。
よくよく思うと、ジェシカが電話をかけていることをもっと早く犯人は気付くことが出来たはずなんですが、そういう甘い部分をしれっと誤魔化しているのを許せるのは、ほかの部分が良く出来ているからなんですよね。
つっこみばかりでもサスペンスは興醒めですが、これぐらいなら許せるという範疇に収まっていると思います。

キャストでは、まだ本格的なブレイク前のスターが出演していて初々しい感じです。
クリス・エヴァンスは、脳天気でありながらも正義感も持った常識人であり、意外と度胸もあって更には機転もきくといった、それなりに難しいであろうライアン役を危なげなくこなしています。現在だとどうしてもキャプテン・アメリカのイメージでみてしまいますが当時はまだそんなに知られていない頃で、誰もがライアンという人物を応援したくなるように巧みに演じていると思いました。
また、出番は少ないものの、元カノ役でジェシカ・ビールが出演しています。

ジェイソン・ステイサムは最近ではヒーロー役がほとんどですので、冷酷な犯人役は新鮮。
こういった映画は犯人のキャラクターも重要になりますが、さすがはジェイソン・ステイサム、その存在感は別格ですね。
少しだけですが、格闘シーンでは切れ味するどく、流れるようにスピーディな殺陣を披露してくれます。

ラストの締め方も、ウイットにとんでいて、実に爽やか。
喉ごしも良いと後味も旨くなるという、三ツ星シェフのつくった料理の如く味わい深い傑作でしょう。