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狼は天使の匂いの一人旅のレビュー・感想・評価

狼は天使の匂い(1972年製作の映画)
3.0
ルネ・クレマン監督作。

カナダを舞台に、とある強盗一味に仲間入りした逃亡中の男・トニーが辿る運命を描いた犯罪サスペンス。

『鉄路の闘い』『居酒屋』『パリは燃えているか』の名匠ルネ・クレマン監督後期の犯罪映画で、アメリカの俳優ロバート・ライアンとフランスを代表する名優ジャン=ルイ・トランティニャンの競演が最大の見どころ。ヒロインの一人を演じたティサ・ファロー(ミア・ファローの妹!)の小動物系ルックスが可憐で、もう一人のヒロインを演じたレア・マッセリのワイルド系といい感じに対になっている。

恨みを買った相手から命を狙われ逃亡中の男・トニーが、ある出来事をきっかけにチャーリーをボスとする強盗一味の仲間入りを果たす。一味はマフィアの裁判の重要証人を誘拐し身代金を要求するため行動を起こすが...という犯罪サスペンスだが、フレンチ・フィルムノワールと呼ぶには犯罪色・絶望感が随分薄い。約120分の上映時間の中、その半分近くが一味がアジトにしている河畔の一軒家での仲間内の会話劇に割かれており、人質的扱いだったトニーが強盗一味に受け入れられていく過程が映し出される。その中で、二人のヒロイン(シュガー&ペッパー)とトニーの淡いロマンスや、一味のボスであるチャーリーとの心理的駆け引きが描かれ、いわば物語の前半は、トニーと一味の間で友情&愛情が育まれる時間としての意味合いが強い。ようやく犯罪色が出てくるのはラスト30分あたりからで、【車で外壁クラッシュ】【ビルとビルをハシゴ渡り】【意表を突く銃撃戦】と前半の展開が嘘のように動きのある映像が続く。

主人公とヒロインの関係が曖昧で、ワイルド系ヒロインといい感じになったかと思えば、いつの間にか小動物系ヒロインに乗り換えてたりと描写があやふやで説得力に欠ける。女への愛情か男同士の友情かという命題はこのテの作品に付き物だが、本作におけるトニーの選択と決断はいまいち心に響かない。チャーリーとの友情にしても、ヒロインとの愛情にしても、描写が足りないので“本当に絆ある?愛情ある?”と疑わざるをえない。ルネ・クレマンにしては...というのが正直な感想だが、米仏を代表する名優の競演&可愛いヒロインの存在感は大きく、画面映えする。
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