Punisher田中

自転車泥棒のPunisher田中のレビュー・感想・評価

自転車泥棒(1948年製作の映画)
3.8
理不尽との対決を強いられ、
善悪の境界に立つ男を収めた歴史的名画。

長さが90分以内とコンパクトな仕上がりながらも丁寧に作り込まれた脚本とセット、そして仕上げられた名優による名演が心を打つ傑作。
この作品は一つのある家族の父親にピントを合わせて語っているが、その父親と父親を支える母親と息子の描き方が面白い。
悲劇に遭ってからの父親がとにかく情けなく、息子や母親に対して父親面をしているものの、事態をどんどん悪化させていくといった弱さを見せていく。
ある意味、家父長制を取り扱っているとも云え、情けない姿を魅せる父親に対しての彼ら母親や息子の振る舞いの端々には健気さや優しさが光る。
そこには、人間の醜悪さや強欲さに対抗できるものが、家族の温かさだということを描いているのでは。
それと同時に、どうにもできないことは、どうにもならないということを描くリアリズム作品のように感じた。
昔の作品には珍しく、悲劇的な事態をファミリーパワーや優しい人間達の温かみのある力でどうにかする...とはいかずに、人間の醜悪さと家族の尊さを対比的に物語っている。

鑑賞後はズーンと心に負荷のかかる作品だが、ずっとしんどいトーンで進むわけではない。
忙しなく展開し続けるテンポの良いストーリーとエンタメ的シーンの見せ方と劇伴が光っており、自転車が出てくると他シーンとの緩急で不思議と面白く感じるのも時代柄。
Amazonプライムで鑑賞したが、フィルムの質感が味わえて、1シーン1シーンが味わい深いものになっている。
教養としても、単純に映画としても面白いので、子供たちに授業で鑑賞させることも良いのかもしれない。