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自転車泥棒のrollinのレビュー・感想・評価

自転車泥棒(1948年製作の映画)
4.5
第二次世界大戦後のイタリアの社会問題を“瑞々しく”描いた所謂ネオリアリスモの傑作。若き日のセルジオ・レオーネ監督が助監&エキストラで参加。

あまりに時空を隔てた風景はSFの様な趣もあるし、貧しい者同士手を取り合う地下のコミュニティはクストリッツァ監督の『アンダーグラウンド』みたい。質屋の倉庫に積まれた膨大な量のシーツや量産型のコピペ団地、そしてモノクロによってさらにその差異が不明瞭な大量の自転車そのものが全体主義の名残の様に感じられ、そのディストピア的な世界観は自転車を監視してくれないジョージ・オーウェルの『1984』なのでやんす。

やっとありつけたポスター貼りの仕事に必要な自転車を盗まれてしまう名前だけは贅沢な主人公リッチと、彼の長男で隙あらば立ちションしようとする名探偵ブルーノ君。
厳しい経済状況の中でワイルドに家事をこなす妻や、父と子の心のやりとり、とりわけ父親を反面教師にしっかりせざるを得ないブルーノ君の愛らしさが映画を悲劇の土俵際ギリギリのところに踏みとどまらせております。

自転車を探す二人の動線の先に広がる風景。足を使わずに稼ぐインチキ占い師に縋る者や、レストランでブルーノ君が思い知らされる生活格差など、アクションと状況説明が実にスムーズにリンクしていき、その手際の良さは心地良いくらいでやんす。

とにかくブルーノ君が可愛くて仕方ないんやけれども、主人公は彼を放ったらかして自転車探しに夢中。観客はいつブルーノ泥棒が起こるかハラハラしてしまい、そのうちブルーノ君こそが“もの言う自転車”であることに気付かされるのでありやす。

そしてラストの展開は一見不憫で惨めな様に映るけれど、主人公がブルーノ君の手をしっかりと握り、映画が完璧なタイミングで幕を下ろす瞬間の感動は格別。
ただ東京でチャリを盗む奴は絶対に許さん!
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