ひこくろ

無防備のひこくろのレビュー・感想・評価

無防備(2007年製作の映画)
4.1
流産の経験がある律子は、妊婦の千夏に何も悪印象を持っていない。
でも、どうしても一緒にいると心に澱が溜まっていってしまう。

澱は人間にとって、コップに溜まる水のようなものだ。限界までくれば溢れ出す。
千夏が親し気に近づいてくればくるほどに、律子の澱は水位を増していく。
そしてもうダメだ、というところで、やっと本音で語り合えたことで、彼女の澱はギリギリのところで止まる。

でも、現実がそうであるように、それは決して終わりではない。
冷えきった夫婦関係を抱えた律子の澱は、仲の良い千夏夫婦を見てまた溜まりはじめる。
その様子を映画はこれでもかというぐらい、丹念に、じわじわと抉るように描く。
そして、ついに澱は彼女のコップから溢れ出す。

とはいえ、現実問題、澱が溢れたところで何かが壊れたり、破滅したりするわけではない。
ただ、彼女自身が押し潰されて壊れていくのだ。
そこがとてもリアルで、観ていて苦しかった。

でも、市井監督はここで映画を終わらせようとはしない。
澱が溢れ出し、自らが壊れた先でも、人は澱と向き合い、立ち向かうことができる。
傷つき泣きながらも、奮い立って歩くことができる。
その思いを込めたクライマックスシーンは、希望に満ちていて、たまらなく美しい。
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