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クラッシュのヨウのレビュー・感想・評価

クラッシュ(2004年製作の映画)
4.8
黒人やアラブ人に対する人種差別と偏見が、更なる悲劇を生じさせるが、もとを辿っていくと差別する側も、また別の相手から偏見や被害を被っている、そんな負の連鎖にからめとられた群像劇は、まさしく重厚な物語でした。

自分と異なる者に対しての人種差別や偏見は、言いようもない不安に襲われる世界ではもはや根深いものです。この物語には幾つもの場面で銃が出てきますが、ただ一発、発砲されたのが、物語の良識側の人物だったのは何かを象徴してる様で非常に考えさせられました。

しかし引火が迫る事故車の中から、自分の命も顧みず黒人女性を助け出した場面も、人間の本能に根ざした行動だとしたら、そこにこそ希望が見出せます。

自動車強盗の黒人アンソニーは、黒人ディレクターのキャメロンに銃を突き付け、車を強奪しようとしますが、キャメロンはこう諭します。
「お前は俺だけじゃなく、お前自身も貶めている。」
その言葉を突き付けられ、自分の生き方に疑問を抱き始めたアンソニー。物語の終盤、盗んだ車の中にはブローカーが売る為に集めた違法移民が潜んでいました。アンソニーが彼らを売らずに解放したのは、周囲が、あるいは自分でさえ向けてきた黒人への偏見に対する抵抗の様にも感じました。

この幾つものエピソードが絡み合い、傷付けあう物語は、黒人刑事グラハムの冒頭のセリフに象徴されます。
「本当は皆、触れ合いたいのさ…」
触れ合いたいのに、知らずのうちに根差された偏見に絡み取られ、クラッシュ(衝突)を繰り返しながら生きている。悲劇は連鎖しますが、この物語の最後に描かれた幾つかの希望は、ささやかだけど確かな光を感じました。
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