夕飯真鯛

トラスト・ミーの夕飯真鯛のネタバレレビュー・内容・結末

トラスト・ミー(1990年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

気になるところがあって二、三度見返してみたらどんどん味わい深くなっていく作品だった。

[感想]
昔は親が子供の人生を自分の物みたいに使うみたいなことが普通だったのだろうか。マリアもマシューの家庭もそう描かれていたから少なからず、年配序列的な考え方があったのかなと思った。

ジェーンスーさんもこの作品に触れていることをチラッと聞いたし、知らず知らずのうちに親がこの人生を抑圧してしまうということはあるのかもしれないと思った。

いやというより、知らず知らずのうちに親が子供に影響を与えてしまうのは必然で、抑圧とまでいかないにしても、僕自身も本当に子供の頃本当にやりたかったことをやりたいと言えずにいたこともある。

作中でもマリアに対して知らず知らずのうちに影響を与えているんだよと、看護師の人が言う場面がある。恐らくそばにいると言うことはお互い影響を与え合って生きていくと言うことなんだろう。

この作品を見終わった後あんまりないんだけど、無性にもう一度映画を見直差なきゃと思った。

見直してやっとラストのシーンとマシューとマリアが家でキスしたシーンの台詞がかさなることにきづいた。

やばいまた味わい深くなってしまった。マシューとマリアの母が父親の死について話すシーン。母親は「マリアに償わせる。」「家族はくっついていなきゃいけないの」と言う。そのあとマシューは何言ってんだと言うような顔をする。

このシーン1回目では何に対してマシューはうんざりしたの?って思った。でもよく考えたら家族だからってマリアの人生を縛る理由にならないじゃないか、、。しかもマシューは「辛いのは自分だけか?」と母親に聞き、「母親は家族はくっついていなきゃいけないの」と言う。

家族は特別なんて言うけど、それは家族に縛られて生きなければならないと言うわけではない。本当にさりげなくだけれども、しかし核心をついているシーンだと思った。これに気付くと他にも見えてくるが、どの場面も母親は当たり前のように言っている。だから余計気付きにくい。

他にもマシューが病院で起こるシーン。女性の悲しげな顔が本当に一瞬撮られた後で男性の心ない言葉がマシューに向けられる。見逃してたよ。女性の悲しげな顔。本当に一瞬だけどそれにしっかり気付いているマシュー。さらにそのシーンをしっかり入れているハル・ハートリー。

すごいと思う。意外と女性のワンショットを入れないで、心ない言葉を言う男だけしか撮らない映画があるのよ。そこをしっかり入れてしかもそれに気付くマシューを入れているのが本当細かいところまで行き届いていると思った。

そのあと時計台の下で愛より尊敬出来るの方が大切なんだよとマリアに言うシーン。その後マリアが愛と同じくらい尊敬出来ると言ってとマシューに言う。その質問に少し考えながら分かったと言うマシュー。

最初そんな気にならなかったけど、最後まで見て見てこのシーンの解釈が変わった。

これは完全に僕の想像だけど、このシーンではマシューは愛ってなんだろうと考えていたと思う。それは本当に抽象的すぎる概念だから。

でもラストシーンで印象的に「そばにいたいから」という言葉が使われる。恐らくこれはハルハートリー自身の一つの回答のように見えた。つまりそばにいたいと思うその気持ちが愛の一つの形だと僕は思うとハルハートリー自信が言っているように思えた。

しかも上で書いたようにラストシーンと全く同じシーンがマリアの家で描かれている。その時は最後、言葉に詰まる感じで「そばにいたい」までは描かれていない。

正直ほぼ同じセリフが使われていることに1回目は全く気づかなかった。この映画の面白いところは映画の中の人達にしか分からない世界観みたいなのが流れているところ。でもしっかり見てみるとそれに気づけるようになっていることだと思う。

なにか本当に息がピッタリな感じの空気感が流れていて、1回目見てる時はどゆこと?と思うことあるけど、2回3回見ればどんどん理解深まっていってもっと味わい深くなるとこ露だと思った。

あとマリアに妊娠させちゃった男の子。セリフの流れが自然すぎて適当に見てたら見逃してしまうけど、どこか男性中心というか女性を見下しているような物言いをしている。1回目は違和感ありまくりでムカついたほどだった。

しかし2回目見た時、そこの機微を一瞬見逃してしまった自分がいたから驚いた。それほどまでに自分を信じ切っている人間の言葉は説得力が伴う
ということだろう。

この作品は人間は何かを信じて生きていると思うけど、それ故に気付かぬうちに人を傷つけたり縛ってしまっていることが本当に上手く描かれていて凄いと思った。

気付かないうちに誰かを傷つけているかもしれないということを念頭に入れながら人とか変わるべきだと思った。さらにどこかに自分を変化させていける余裕を持たなければ、気付けるものも気づけなくなってしまうと改めて思った。

この作品は本当に冷静な視点で世の中を見ていて、しかもそれが本当に洗練されている作品ですごいと思った。これが90年代に作られた映画であるのが本当に信じられないくらいすごいと思う。
夕飯真鯛

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