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コントロールのblacknessfallのレビュー・感想・評価

コントロール(2007年製作の映画)
3.5
JOY DIVISIONのフロントマン、23才の若さで自ら命を絶ったイアン・カーティスの魂の軌跡を描いた映画。

JOY DIVISIONと言えばポスト・パンクの重要バンドでトニー・ウィルソンに見出だされたことでファクトリー・レコードの看板バンド、その流れでファクトリー・レコードから始まる所謂、マッド・チェンスター・ムーヴメントのルーツ視されたり、様々な側面を持ったバンド。
そして意外なことにアンダーグラウンドのハードコア・パンク界隈からも人気がある。主にポリティカル系のバンドのメンバーがJOY DIVISIONのTシャツをよく着用している。ZOUNSやUK DECAYはCRASS周辺のアナーコ・パンクたが、サウンドはJOY DIVISIONのポスト・パンク・スタイル。ノイズ・コアの始祖DISORDERはJOY DIVISIONの曲名からバンド名を取っている。

JOY DIVISIONのパンク方面への影響力の大きさは一重にイアン・カーティスの歌詞にあると思う。美しい文学的な言葉で社会と自身の軋轢、生きることの苦悩、絶望感や厭世観を誤魔化すことなく言語化した歌詞は気取りやポーズで孤独や絶望を売り物にするメランコリーなバンドとは一線を画している。
自分もイアン・カーティスの言葉が何によって紡ぎだされていたのか興味があってこれを鑑賞した。何をどう見つめたらこんな神憑りレベルの歌詞が書けるのか?

イアン・カーティスには勝手に超越性を感じてたけど、本作で描かれるイアンはあまりに存在として普通で驚いた。
デヴィッド・ボウイからパンクに出会い衝撃を受けバンド結成、その間結婚し一児を授かる。
バンドが成功するにつれ妻の関係に距離ができ、そんな時に心を奪われる魅力的な女性が現れ不倫関係に、それが妻に知られドロドロに。
歌詞の超越性とは裏腹にその言葉が産み出された背景は思いっきり俗で有りがちだった笑
映画もこの2人の女性の間で葛藤するイアンがメインになってるから、バンド映画みが薄い。どっちかって言うと太宰の「人間失格」とかの文芸映画みたいなんだよな笑 性格も太宰っぽく見えないこともない。不倫するには根が良心的過ぎるし、誤魔化すことができるほどの図太さもない。心に嘘もつけないし自分の罪から目をそらすことができない。そういう人だから死を選ぶことに納得はできた。
あと、イアンの場合は癲癇持ちでそれが年々悪化してく不安もあったみたいで、これは同じ厄介で良くなることがない病気持ちの自分としては、この部分は刺さった。この先、もっと厄介になって人に迷惑かけるだけなら今、消えた方が、という心情、分かるな。

自分が抱いたイアン・カーティス像と全然違ってたけど、本作で描かれた意外なほど凡庸で繊細なイアンも好きだな。

バンド映画みは薄いと言ったけど、ライヴシーンの再現度は高い。あの有名な両手を弱いボクサーの苦し紛れのアッパーカットのようにブンブン振り回す動作、イアン・カーティス・ダンスとしか形容できないあれを忠実に再現してるとこにバンドとイアンへの愛を感じた。
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