アーリー

わが青春に悔なしのアーリーのレビュー・感想・評価

わが青春に悔なし(1946年製作の映画)
4.5
2023.10.16

滝川事件とゾルゲ事件を一つの物語として纏め、その二つに振り回されながらも自分の生き方を見つけていく女性のお話。他人の脚本の作品。

帝国主義が蔓延し、戦争へと近づいていた時代。学校への思想弾圧が行われる中、国を良くしたいという情熱を持った男がスパイに。ゾルゲ事件での尾崎秀実はその最期に、自分の活動の理由を日本帝国主義からソ連を守ることと供述したようやけど、今作でのスパイ野毛は戦争を回避するための活動をしていたという程度の説明に留まる。前者は戦争そのものに対して躊躇いはないかもしれない。戦争を起こさないために自国を裏切り、スパイ活動をする。そんなことは可能なのか。戦争はもう仕方ないことだと割り切り、日本が負けるよう仕向けることで日本帝国主義を一掃し、自由を取り戻そうとしていたとするのは流石に考えすぎか。
 歴史は勝者が編纂するものやから、野毛がどれだけ正しいことを言っていたとしても、もし日本がWW2で勝利国になっていたら彼らの扱いはもっと酷いものになってたやろうな。それでも言論の自由を統制する社会は許されへんかったんやな。

こういう自分は日本人であり日本という国を守らなければならない、という意識が今の俺にはない。なんやったら日本人という枠組みに入って、その他の国の人間と自分を区別してしまうことが怖い。そういう区別があるから人類は一つにならない。

主人公幸枝は本当にエキセントリックな女性。糸川に対する行いや言動が思春期の女の子を思わせる。野毛と口論になった彼女に対し糸川が慰めると、あなたは彼以下の男よと何故かこちらに牙を剥かれる。彼氏と喧嘩した女の子を慰めようとしてその彼氏の悪いとこを軽く触れたら、そんな風に彼のことを言わないでと怒られるような。今でも充分伝わる感覚。危険な男に理性ではダメと分かっていても本能で惹かれてしまう。女性特有の感情かな。危ない男が好きみたいな。そして彼を追いかけ、結婚し、警察に捕えられ、夫と死別。彼の両親のところに行き、住み込みで農業を手伝い、スパイファミリーの烙印を押され数々の嫌がらせにも耐える。お嬢様から奥さん、そして農家へと変わっていく中で、彼女の風貌はもちろん表情がどんどんと鋭くなり、強さを帯びていく。このキャラクター性や一人の女性が時代に翻弄されながらも強くなっていく姿は、現代においても受け入れられるのではないか。

そういえばシーンが変わる時のワイプが今作なかった。これまでの黒澤脚本作品にあった痛快さが今作では感じられない。それがちょっと寂しかった。まぁ脚本的にそんな雰囲気じゃないからやろうけど。国を案じて行動した人たち。こういう人たちは実際におったやろうし、その時代に生まれ懸命に生きた人の姿が垣間見れたのが良かった。
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