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グリーンマイルのhynonのレビュー・感想・評価

グリーンマイル(1999年製作の映画)
3.8
意外にも宗教的。

現代人にとってリアリティの薄い聖書の逸話を、現代を舞台に生々しく再現したような作品。

キリストはこの世にやって来て、奇跡を行い、人を助け、病を癒し、自身は何も罪を犯さなかったにもかかわらず人間の罪を被り、処刑に甘んじた。

まったく同じではないけれど、イエスの生涯をベースにしているのだと思う。

悲しいことに、そして驚くべきことに、何千年経っても人間は変わらない。
人間が犯す罪も、人間の本質も、聖書が書かれたときと同じで何ら変わらない。
争いも、犯罪も、憎しみも、差別も、この世からなくなることはない。

そんな世の中だから、コーフィは何も悪くないのに、人を助けようとしてきたのに、疑われ、罪を着せられ、死刑囚として送られてきた。そして世の有様に心を痛める。

正しい人であるがゆえに、善い人であるがゆえに、苦しまなければいけない。
悪い奴の方がよっぽど楽しそうに生きている。
そんなの、あんまりじゃないか。

なぜこんなやりきれない話なのか。
それはつまり、今まさにコーフィを苦しめているのは私たちなのだ、私たち人間の罪なのだ、ということだと思う。
かつて罪のないキリストを苦しめ、死に追いやったように。
それは遠い昔の話?いや、人間の本質は今も変わっていない。

コーフィ以外の登場人物は、ある意味、人間の様々な性質を体現しているとも言える。
ひとりの人間の中には、優しさもあるし、弱さもあるし、狡猾さも、猜疑心もあるし、排他性も、差別意識もあるし、残虐性も、加虐心もあるし、悔悛の情もある。
自分の中には残虐性はない?いや皆同じだ。
完全な善はキリストだけなのだから。

ところで、誤訳というか、字幕がところどころ気になった。

コーフィが死刑囚棟に到着した時のパーシーのセリフ
「Dead man walking!」
「Dead man walking, here!」
「We got a dead man walking here.」
を「死人が歩いてく!」と訳しててびっくりした。
この訳はどうなんだろう?
「dead man walking」は「死刑囚」という意味のスラング。
ここでは「死刑囚が来たぞ!」「死刑囚のお通りだ!」とか「新入りだぞ!」って意味じゃない?
せめて「死人が通るぞ!」とか。

キリストが何度この世に現れても、人間は彼を死なせてしまうんだろうな。

けれど、天賦の能力を待つ善き人を死に追いやってしまった無念さや、痛みや、悲しみを感じる心が私たちにあるなら、その人の死と想いを背負って少しでも世の中を変えていこうとするなら、まだ希望はあるかもしれない。
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