櫻イミト

火星から来たデビルガールの櫻イミトのレビュー・感想・評価

火星から来たデビルガール(1954年製作の映画)
3.5
1954年に制作されたイギリスの初期SF映画。女性エイリアンが男性を捕獲に来る先進的な内容と、革&ゴムフェチの伝説的デザイナー、ジョン・サトクリフが衣装を手掛けたことでカルト化した一本。

スコットランドの高地。付近で落下した隕石の調査のためカーター記者とヘネシー教授が人里離れた宿を訪れる。宿を営むのはジェイミーソン夫妻と給仕のドリス。先客の女性エレンも同席し和気あいあいと夕食を始めるが、そこに脱獄したドリスの恋人アルバートが逃げ込んできた。騒然とする面々・・・突然、轟音が鳴り響き巨大な円盤が近くに降り立つ。現れたのは火星から来たという女(パトリシア・ラファン)だった。。。

かなり面白かった。タイトルからC級映画であることを覚悟していたが、実力ある俳優陣と実直な演出で作られた古き良きユニークなSFエンターテイメントだった。DVDジャケットには「エド・ウッドを越える!?幻の珍作」「爆笑ポイント」など90年代映画秘宝的な幼稚な煽り文句が連ねてあるが本質を捉え損ねている。荒唐無稽な設定を真面目に作り込み、あえてレトロなロボットなどで外してみせることでシュールなエンターテイメントを目指したのが本作だ。

火星女のキャラ造詣とビジュアルが見事。火星で起こった男性vs女性の最終戦争に女性が勝利し、男性を殺戮しすぎて種の存続が危うくなったため地球の男を捕獲に来たという設定。演じたパトリシア・ラファンは超大作史劇「クォ・ヴァディス」(1951)でネロ皇帝の悪名高い愛人ポッペアを務めた女優で高飛車な芝居は得意とするところ。サディスティックだが、ロボットの殺人光線を披露した際の自慢げなドヤ顔がチャーミングだった。

SMの女王を連想させるレザーコスチュームも、安っぽさがなくかなりいかしていた。手掛けたジョン・サトクリフは好事家には有名な”本物”の偉人で、後に彼の撮った写真集がわいせつ罪の判決を受けることになる。ちなみに峰不二子のモデルとなった「あの胸にもういちど」(1968)のマリアンヌ・フェイスフルのライダースーツもサトクリフが手掛けたもの。

”女性エイリアンが男性を捕獲”の設定はおそらく本作が先駆ではないだろうか。さらに「アルマゲドン」(1998)的な”地球存続のための自己犠牲”を描いたのも先駆的だったと思われる。

レトロで低予算ではあるが意欲的で様々な見どころを秘めた一本。イギリス映画らしい折り目正しさも好印象な隠れた秀作。
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