モリアーチー

悪魔の往く町のモリアーチーのレビュー・感想・評価

悪魔の往く町(1947年製作の映画)
4.0
タイロン・パワー主演の珍しい20世紀フォックス製フィルム・ノワールで、名作の一本に数えられているようですが、日本では有名とは言えません。2021年に公開された『ナイトメア・アリー』と同じ原作小説の映画化です。フィルム・ノワールとしてはかなり変わり種というか珍品です。監督は『グランドホテル』のエドマンド・グールディングです。

戦前には典型的な二枚目俳優だったタイロン・パワーがイメージチェンジを図った作品でもあります。この映画でのタイロン・パワーは人生の絶頂から堕ちるところまで堕ちた男を熱演しています。

タイロン・パワー演じるスタントン・カーライル(スタン)はカーニバル(移動遊園地、というか移動見世物小屋です)に雇われたばかりの青年です。このカーニバルの売り物は「オオカミ男(ギーク)」、そしてジーナの「透視」です。スタンはジーナ(ジョーン・ブロンデル)の透視術に興味を持ち、その秘密を手中に収めたいと思います。ジーナのパートナーであるピートはアル中で、スタンはこっそり酒を買ってあげたのですが、間違えてメタノールを渡してしまいピートは死んでしまいます。

スタンは自分の過ちを隠してジーナのパートナーとしてカーニバルで働きますが、このピートの件はスタンの強いトラウマになって心を支配してしまいます。これがこの映画の通奏低音になっています。

スタンはカーニバルの若いモリー(後に『幻の惑星』にも出演するコリーン・グレイ)に惹かれて二人で独立することを考えます。二人の関係はジーナとモリーの相棒のブルーノ(『ブロンドの殺人者』で大鹿マロイを好演したマイク・マズルキ)に見つかってしまい、カーニバルから追放されてしまいます。

強制的に独立前提で結婚させられた二人は読心術を使ったメンタリストとしてホテルと契約して人気が出ます。スタンは客として来ていた精神分析のリリス・リッター博士(ヘレン・ウォーカー演じる似非博士です)を同類(詐欺師)と認識してタッグを組んで金持ちから金を引き出そうとします。

ここからスタンの転落が始まります。ラストに至るまでの怒涛の過程は見ている方もまさに「悪夢横丁」(原題)に引きずりこまれるような感覚です。スタン、もうやめろ、引き返せ、ジーナの忠告を受け入れろ、モリーの願いを聞け、リリスを信じるな、とアドバイスしてあげたい、でもスタンは聞かないのですね。

ラストはスタンもカーニバルに戻ります。お話は一周して見事に伏線を回収します。
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