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三重スパイのpikaのレビュー・感想・評価

三重スパイ(2003年製作の映画)
4.0
ロメールの他の作品と比べて評価が分かれているみたいだけど個人的には好きだ。グイグイのめり込まされて面白かったし最後はガツンときた。余韻が。。
スペイン内戦の最中フランスが共産主義に溢れた時代の実際に起きた謎の事件を元にディテールを予想して作った物語で、その題名通り三重スパイの亡命ロシア人とその妻の会話劇になっていて、実際の事件なので会話内容や思想、派閥などの政治やなんやの部分は多少小難しいんだがさすがロメール、知識もリテラシーもないアホがよくわからないなりに見ても楽しめるよう作られてるので、なるほどなるほどと見ながらなんとなく理解を進めつつドラマそのものを存分に堪能できた。スパイの妻でありながら政治には全くの無関心である妻の目線で語られるところが準備なしの観客にも易しい作りになっている。

毎度のことながら会話を繰り広げているだけのロメール映画ではあるんだけど、いつもクールなアイツのタガが外れて突然熱くなった、みたいなロメールの、技術や完成度を超えたパッション的なものが胸に突き刺さった。
この事件を選んで映画を作ったっていう意図から反戦の想いを感じつつも、同時に女性を映画で描いてきたロメールが、社会から見た女性の地位について提示し、過去から見て現在はどうかと問うようなドラマを見せたというのが熱い。
全てを包み込み、理解し、祖国や友人を捨てても躊躇なくついていくと言って心から愛してくれる女性とスパイの夫という切り口が雄弁。
通常運転の軽妙な会話劇で、最後まで映画のトーンもテンションも変わらぬまま終わるが、オチがオチだけにそのままだからこそ尚の事ズシリとくる。合間に挟まれる当時の映像も、リズム的には損なう印象はあれども素っ気ない入れ方に反してロメールの意思が迸って垣間見える。

フランスを舞台に主役がロシア人の亡命軍人とギリシア人というのが面白く、アパートの上階に住む共産主義のインテリ夫婦と会話しながら、絵の好みや言葉の違い、政治的立場など彼らの職業に合わせて祖国の違いを展開させていて興味深い。

妻が病院へ行くカット、ロメールなら省略しそうなところを敢えて入れてるのは妻のセクシーさを省略したくなかったんじゃないかと勘繰る笑
全編通して妙にエロティック。
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