かめの

エル・スールのかめののレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
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まだ映画をあまり観ていなかった10年以上前に初めて観て、よく分からず、去年から『ミツバチのささやき』、『瞳をとじて』、そして『エル・スール』を続けて映画館で観ることが出来た。

エンドロールが短すぎると感じるほどゆっくり想いが高まって、映画館を後にしてからも頭の片隅に離れず、その夜、父と娘の最後の食事を思い出して、お風呂で少し泣いた。冒頭の涙、父の表情、「授業をさぼれないか、」と言ったその言葉の意味、全てがないまぜになって、とりこぼれてしまった命の儚さに胸が痛くてたまらなかった。

父と娘が一緒に踊った曲で踊っていたのは、知らない新婚夫婦。さらに、幼い頃から一緒にいる時間が長かった母親との思い出は希薄であるのに対し、父に特別な感情を持っている娘、という構図はどこか近親相姦的で、ゆえに父親の死も自然なことと思える。

妻よりも近く、しかし誰よりも遠い。娘が父の秘密を知っていた、という事実は、単なる父の浮気心を超え、たくさんのものをあぶり出してしまった。彼女が授業を放り出し、父の言葉を聴いていたら……?いや、そんな想像は愚問に過ぎない。

後で知った話だけれど、この作品にはまだまだ続きがあったそう。それを知って確かにと納得したが、映画は監督一人のものではない、総合芸術だ。であるからして、この作品はここで完結したのだ。
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