曇天

世界侵略:ロサンゼルス決戦の曇天のレビュー・感想・評価

2.0
どういう面持ちで観てればいいのか。
軍隊がエイリアンと戦う展開の映画なんて過去にいくらでもあったと思うけど、ここではどういう新しさを求めて作ったんだろう。
メインではアメリカ海兵隊礼賛がテーマになっている。過去に仲間を失った老兵が過ちを繰り返さないために命がけで職務を全うしようと務める。

端的に言えば、敵は見た目がエイリアンで火力が凄いというだけで技術力は人間と同等、歩兵と重火器と戦闘機で展開してて戦闘様式も似てる。米国側も戦い方はいつも通りでなんとか対応できてて、エイリアン独特の手も足も出ない恐怖感がない。どんな窮地に陥っても民間人を助けるまで諦めず人事を尽くすという軍人の美しさがこれでもかと描かれる。

これ相手人間でもいいじゃん、エイリアンである必然性がない。米国領土を攻撃するような国を固有名詞で名指ししてしまうとかどが立つからだろうけど、それならロサンゼルスロケを諦めてどっかの小国の米国民間人を救出する話とかの方がリアリティがあるし、舞台設定を変えたところで軍人としての誇りを描くのになんら支障にならない。あとこの手の話にありがちの、人間じゃないから敵に少しの気兼ねもなくぶち殺せる利点。国際法はエイリアンには適応されないから捕虜にもなれない。そういう奴に対して軍人的なメンタリティを保ったまま勝利するのは卑怯だ。軍人の美しさを描くための装置でしかないからそうなる。エイリアン相手なのに「奴らにはいつもと違う戦い方をしなければならない」というような持ち味も生かされず終わる。
もっとCGばっかりの大規模な前線を映すのかと思ったら、ドキュメントタッチの手ぶれで、戦闘が終わった後の戦場を行く小隊規模しか映さない、映像的にも肩透かし。救出作戦として見るならそれこそ実際に人間の敵を据えた方がリアルな恐怖感が出るし、米軍のリアルな対処方法が見れて勉強にもなるはずなのに。

言動は控えめながら一から十まで戦意高揚しててアメリカ海兵隊礼賛、マッチョイズム、『ネイビーシールズ』と同じく米軍の息がかかってそう。その考え方で見るとエイリアンは「米国の仮想敵」のメタファーで、初出兵前に訓練教官から「敵は人間じゃなくエイリアンと思い込め」と教え込まれている気分。皮肉。

似たような設定で『バトルシップ』があるけどあっちはコミカルで、リアリティを薄くすることでエイリアンを話に馴染ませてて、それなりのロジックで敵に勝つ説得力を持たせてる秀作。あとエイリアン艦と対峙した時の「敵かどうか」を判断するまでの間を作るなど、エイリアンモノの定石も踏んでて好感が持てる。オタクが作ると『バトルシップ』になるし、マッチョが作ると本作みたくなるんだよな。

一人の米兵士の目線ではそりゃ国家の駒だし、目の前の任務全うするしかないのは確かなんだけど、作り手がそこになんの疑問も持ってないのがヤバイ。外敵が本土に乗り込んで襲ってきたら助けてくれるのは結局は軍人なんだー、そして誇りを忘れない軍人は尊ぶべきなんだー、ってのを真顔で言ってきてる。それはわかる、でもそこにエイリアンを使われると途端に真実味がなくなる…感じ。その骨の髄まで軍国主義が染みついてる真顔さがアメリカらしいっちゃアメリカらしいんだけどね…そんなもん日本で興行しないでよとは思う。
ガソリンスタンド吹っ飛ばした所はカッコよかった、うん。
曇天

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