宇尾地米人

脱走山脈の宇尾地米人のレビュー・感想・評価

脱走山脈(1968年製作の映画)
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 原題の"HANNIBAL BROOKS"はずばり主人公の名前です。これは変わった戦争映画でした。どういう話か。第二次大戦末期に主人公の英国軍人がドイツ軍の捕虜になって、ミュンヘンの動物園に行かされます。「お前ここで動物の飼育係やれ」と。「はあ、そうですか」って像さん"ルーシー"のお世話することになる。せっせとその勤めを続けて、ルーシーとすっかり仲良くなる。上司から「お前大したもんだなぁ」と褒められて、「兵士やるより飼育係のほうが向いてるかもなぁ」と思ってると、動物園が空襲を受けて、酷い目に遭います。「お前、象さんをオーストリアへ連れてけ」と命じられて、この主人公はルーシーを連れて苦労しながら動き回っていく話です。

 これはトム・ライトという英国軍人の実体験が基になっていて、それを当時34歳のマイケル・ウィナーが映画化した。まだチャールズ・ブロンソンと名コンビ結成する前の頃です。ドイツ軍の捕虜になったトム・ライトがミュンヘンの動物園で勤務して、象さんをオーストリアの動物園へ移送させるという本当にあった話。まぁ凄い。だからこれはドンパチの撃ち合いを見せていくような戦争映画じゃあない。像を連れてせっせと歩いて行って、闘って闘って、また歩いて歩いて、頑張っていく戦争映画。変わってますね。でも面白いんです。まず、イギリス人の感覚が出ていて面白い。原案のトム・ライト、マイケル・ウィナー監督、撮影のロバート・ペインター、主演のオリヴァー・リード、みんなイギリス人。主人公は「お前は何で像を大事に連れて行こうとするんだ」と言われると、「イギリス人は動物が好きだからね」と言う。「何で像を連れてスイスに行こうとするんだ」と言われると、「行ったことないからさ」と言う。こういうところが粋で面白い。

 これが異色戦争映画なのは、オーストリアの山地の風景美が決まっているからもありますね。山脈の連なりに積もる雪、木々や草原の緑色、その高地を象と行くところ。フランシス・レイの音楽。ロバート・ペインターのキャメラ。ここがひとつの見どころで綺麗な場面になってました。なんでも象さんは高地に長居すると体調が悪くなるから、しばしば低地で休み休みさせないといけなかったらしくて、その撮影は大変だったみたいです。そういう苦労が綺麗な場面を生み出していて面白いですね。そういうわけでロバート・ペインターの撮影は見事でした。マイケル・ウィナーはイギリスの名監督ですが、ペインターはイギリスの名キャメラマン。この人が撮影する映画はどれも面白い。『栄光への賭け』『追跡者』『狼男アメリカン』『大逆転』『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』どれもいい。ウィナーやジョン・ランディスと組むことが多かった人。

 ということで、これは英国軍人が象さんを無事に連れて国境を越えようとする話。頑張って頑張って連れて行く。敵の兵士と撃ち合いする場面もありますが、この映画は象さんと一緒に闘ってピンチを切り抜ける。象さんのパワーを借りて丸太を落っことして、機関車を脱線させたり、敵の兵隊を転ばせたりする。殺しは嫌だけど、戦争してるから、やるしかないんだなぁというあたり。そうやってせっせと頑張って、どんな最後になるか。無事にルーシーを連れていけたかどうか。変わった戦争映画ですが、面白いんですよ。
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