みかんぼうや

私の殺した男のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

私の殺した男(1932年製作の映画)
4.0
【世の中には知る必要のない真実もある。国を超えて分かち合える人の繋がりを提示した本作公開の数年後、第二次世界大戦が勃発するという皮肉。】

わずか80分弱、そして第一次世界大戦の戦場でドイツ人の若者を殺したフランス人が、戦後、そのドイツ人の家族のもとに許しを請うためにその家を訪ねる、という極めてシンプルな構成ながら、胸が詰まる思いと人間の持つ繋がりの美しさの両方を心から感じられる濃厚な作品。

戦争とは、国家対国家の争いであり、それが個人と個人の憎しみに落とし込まれてしまっては、争いも紛争もいつまで経っても終わらない。森を見て木を見ずにならず、一人ひとりがお互いに分かち合い、人種や国を超えて一人の人間として尊重し合えるることから平和は始まるのだ、という思いを私は本作から強く感じた。

一方で、この作品が1932年という第二次世界大戦が起きる前に公開されているという事実。多くの人々が自分たちの子どもを戦争で失った辛さを描き、そのうえで次の時代に動き始めるこのラストを観ながら、この数年後に再びフランスとドイツは第二次世界大戦でさらに酷い惨劇に対峙することとなることを考えると、ただただこの作品が皮肉的に見えてならない。

この映画の製作陣も、観客も、公開当時は、「もう二度とこんな悲劇は繰り返すまい」という誓いと将来への希望を抱き、この作品を大切にしたであろう。それを考えると、より胸が痛むとともに、人間の強欲の愚かさを改めて考えさせられ、そして私たちが生きる現代においても、その歴史がまた繰り返されるのではないかという恐怖と憤りを覚える。

1932年の作品ということで、演出の派手さも全くなく、非常にシンプルな内容と展開だが、だからこそストレートに人間の優しさに触れる脚本が胸を打つ。まさにシンプル・イズ・ベストを体現した映画であり、同監督の他作品をチェックせずにはいられないほどの魅力に溢れた名作だ。
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