九月

夏物語の九月のレビュー・感想・評価

夏物語(1996年製作の映画)
4.5
未だかつてフランス映画を手放しで好きだと思ったことはないのに、何故か突然、急激に観たくなることがある。
そんな時に、いつか観てみたいと思っていたエリック・ロメール監督作品の特集上映があると知り、暑い中映画館へ。

ブルターニュのリゾート地にやってきた青年。部屋に荷物を置いて、ひとりで出かけ、目的もなくビーチをうろつき、また部屋に戻り、持ってきたギターで音楽を奏で…ひとりなのでもちろん会話などなく、どういう人物なのか、年齢も名前さえも全く分からない。夏なのに長袖を重ね着して、所在なさげな姿は、ちょっと怪しくも見える。
でも、手持ち無沙汰に過ごす主人公ガスパールになんとなく見覚えがあって、彼のことをもっと知りたいと、台詞のない冒頭からかなり引き込まれた。ひとり旅とか、現地集合現地解散とか、遠方の友人を訪ねる、とかすごく好きで、夏休みは必ず遠くへ出かけていた20代前半の頃の自分を思い出す。

正直どうでもいいことしか起こらないのに最後まで目が離せなくて、久しぶりに耳にするフランス語の会話もとても心地良い。

携帯電話やスマートフォンのない時代。
ずっと待ち焦がれている理想の女性、レナからは手紙もない。約束はしたものの来るかどうかは定かでなく、ただひたすら待ち続けるしかない。
ふらっと入ったクレープ屋の店員マルゴと次の日ビーチで出くわし、急速に親密になる。初対面なのに互いの身の上話もして、素の自分をさらけ出せる相手、と安心し、来る日も来る日も一緒に過ごす。
マルゴに誘われて行ったディスコで一緒になったソレーヌ、その時は全く眼中になかったのに、あとから唆されて、運命の女性にしか思えなくなってくる。
ガスパールと彼女たちを引き合わせるのは、偶然とか運命とか、ダイヤル式の固定電話とかそういうもので、現代を生きる私から見ると、この上なく特別感がある。

三人の女性と、音楽の仕事の間を行ったり来たりしながら迷える主人公は、優柔不断にも気まぐれにもただの嫌な奴にも映るけど、あんなに自分本位にふらふらと過ごしてもみたい。
ガスパールが自分のことをマルゴに語る言葉に共感できると思っていたのに、言ってることとやってることが違うように見える場面も多々あって、やっぱりフランス映画に出てくるフランス人、何を考えているのか全く分からない…でもそこが面白かった。

偶然や成り行きに流されるがままなガスパール、自分では決断し切れないところまで女性たちとの関係はもつれていくけれど、案外そういう時ってまた別の偶然があっさり解決してくれたりもする。
最後まで見て、なんだかとても気持ちが軽くなった。

エリック・ロメール、好きかもしれない!と予感する作品だった。他の作品も観てみたい。長回しが多いところもすごく好き。
九月

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