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ファニーとアレクサンデルの1000のレビュー・感想・評価

ファニーとアレクサンデル(1982年製作の映画)
5.0
えげつない傑作だった。すごく面白い。

50~60年代において一つの"スタイル"を生み出したベルイマンが、後続のタルコフスキーやアンゲロプロスに再呼応するかたちで作り上げた、極めて80年代的な作品。
1982年。前後に『ノスタルジア』と『エル・スール』が発表されているのも決定的だし、遠く離れた台湾では『光陰的故事』とともに台湾ニューシネマが産声を上げる。『ファニーとアレクサンデル』もまた、そんな"総力戦"の弾丸なのだ。改めて、映画という文化現象の繰り広げるシンクロニシティにため息が出てしまう。

兄妹を中心に描かれる、一家の人間模様。まずもって男性陣の9割がクズ・外道・甲斐性なしという救いようのない家族。入り乱れる欲望と愛憎。軋轢に次ぐ軋轢。性欲モンスター、カンニング竹山、DV男に、山盛りのメンヘラ、挙句の果てには両性具有。宗教と神、罪と罰にまつわる悠久の思索を繰り広げてきたベルイマンが、最終的にたどり着いたのが「人間」というのは興味深い。

作中でも、最初(オスカル)と最後(グスタフ)の演説によって語られるが、ここにあるのは「小さな世界」でしかない。『アンダーグラウンド』や『旅芸人の記録』が抉り出す"歴史"とは対照的に、『ファニーとアレクサンデル』では一貫して脱歴史化された人々の営みが描かれる。これを作家による普遍性の追求と呼んでよいものかイマイチ自信がないが、ともかく、鑑賞者としては話に入り込みやすくて助かる。5時間というアホみたいな尺とはいえ、最後まで置いていかれることなく(飽きることなく)楽しめる良作。
めんどくさい言葉を並べずとも、『ファニーとアレクサンデル』は要するに昼ドラだ。ちょっとだけファンタジックな昼ドラ。約1時間ごとにエンドロールが流れるので、数日に分けて観たって全然平気。割りと気軽な作品だ。

アレクサンデルの幻想的で神経質な眼差しと、ファニーの地に足の着いた力強い眼差しが、対照的でともに印象的だった。これもまた、痛みを伴う"通過儀礼"なのだ……。
とはいえ、ファニーの立ち位置は謎だ。なぜ『アレクサンデル』でもなく『アレクサンデルとファニー』でもなく、『ファニーとアレクサンデル』なのかは最後まで分からなかった。なんならまだ描きたいエピソードがあったのでは?とまで思ってしまう。

他にもいろいろ書きたいことがあるが、これぐらいで。
正直、長尺の作品に満点をつけるなんて、費やされた時間の正当化でしかないような気もする。だが、こと『ファニーとアレクサンデル』に関しては、そう斜に構えてもいられない。本当に素晴らしい映画体験だった。ここで星を出し惜しみしてどうする?
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