湯林檎

ファニーとアレクサンデルの湯林檎のレビュー・感想・評価

ファニーとアレクサンデル(1982年製作の映画)
4.7
また1つ大切な作品が増えた。またしてもベルイマンにやられた‼️

内容としては1907年から1909年のスウェーデンを舞台に劇団を主宰する裕福なエグダール家とその家族を取り囲む親戚や周辺の人々達との群像劇。
個人的には「小公女」などのバーネットの児童文学小説に昼ドラのようなドロドロ人間模様とオカルト要素を加えた大人向けの絵本のような作品だと思った。
登場人物が多い割にはストーリー自体はわかりやすく、不倫やら愛人やら大人の関係も描きながらも"ファニーとアレクサンデル"というタイトル通り2人の子供の視点から観ているため生々しい嫌らしさは皆無。
※因みにベルイマン映画の中では1番分かりやすいと言われている。

⚠️ここから先ネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。






まず最初のプロローグからして最高!
天使の像がクルクルと動き、その陰では釜を持った死神が顔を覗かせて楽しいこと(クリスマスとラストの家族団欒)と不幸(父親の死と再婚相手からの虐待)がこれから起こることを見事に暗示してて素晴らしい‼︎

第1部の、華やかで楽しいけれど大人達の情事もきちんと描いたクリスマスの様子はお洒落な砂糖菓子を眺めているかのような楽しさがあったし、雪やソリで遊ぶ子供達の様子も北欧らしくて良かった。
第3部で母親エミリーが主教エドヴァルドと結婚してからのエグダール家の転落ぶりは中々見苦しいところがあったけど女好きの伯父のグスタヴの女性関係やカールとその妻の冷めた夫婦関係のドラマなど現代の日本でも普通にある出来事がひと昔前の北欧を舞台にした今作でも描かれていて面白かった。

そしてまたしてもベルイマンらしく(!?)幽霊やら魔術が登場する。私はホラー映画は苦手だし幽霊という存在も好きではないがこの映画においてアレクサンデルの父親オスカルが時々幽霊として画面に登場する度にふと安心感を感じた。肉体は失ってもまるで聖母のように見守ってくれている父親がいつも近くにいると思うとつい涙がこぼれてしまった。

最後のエピローグで家族写真を撮り終えた後火達磨になって死んだはずの主教エドヴァルドが幽霊となってアレクサンデルを背後から蹴飛ばして「逃げられないぞ。」というシーンはゾッとしたw
これは意図として例え怨み殺すことが成功しても魂は滅びないぞというオカルト的要素と1つ不幸が終わっても生きているうちはいくらでも不幸があるのだという隠喩の両方が込められているのかと思った。

厳格な主教エドヴァルドをアレクサンデルを通して殺すこと、幽霊や魔術の存在や不思議な力を持つ青年イスマエルを登場させるなどキリスト教の教えに縛られないベルイマンの思考が反映されていてまさに彼自身の半自伝作品と言えるのだろう。
または映画も芸術も人の魂も不滅だと言うことも含めて。

小さな世界の狭い人間関係の中に生きるとは何か、人間とは何かをギュッと凝縮させた至高の宝物。
5時間の上映時間なのに不思議とまだまだこの世界に浸りたいと思えるような素晴らしい作品だった。
湯林檎

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