月うさぎ

マネー・ショート 華麗なる大逆転の月うさぎのレビュー・感想・評価

3.9
アダム・マッケイ監督の元で金融のお勉強。2008年9月に起きたブラザーズの破綻が銀行業界に大ダメージを与え世界同時不況が起こったあのリーマン・ショックがテーマです。
面白い。事件がではなくてちゃんと人間のドラマになっているところが。

⭐︎クリスチャン・ベール(マイケル):ファンドマネージャー(元医師のファンドの代表者)。ハードロックファンで、ドラムスティックを手放さない。

⭐︎スティーブ・カレル(マーク):ヘッジファンドマネージャー(モルガン・スタンレーの関連会社の責任者)
金融マンでありながら潔癖な倫理観を持っていて常にジレンマでキレそうになっている。
兄の自殺がずっとトラウマになっている

⭐︎ライアン・ゴズリング:ドイツ銀行の取引仲介人。金儲けに躊躇ない野心家

⭐︎ブラッド・ピット(ベン):JPモルガンチェイスの凄腕トレーダーだったが、現在は退職して自給自足の生活を実践しようとしている。若き二人のトレーダーに友人として助力。

4組の立場の異なる人々が、政府側の専門家も金融業のトップのプロも予想しなかった「住宅ローンのバブル崩壊」を読んでいた、という事実に基づくストーリー。

しかし情報量が多くて誰もが一度観ただけで全てを把握して理解できるとは思えませんが😅
CDOは債券 CDSは保険
まずこれはメモしておかないと。

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」
原題:The Big Short

この「short」という単語ですが、もちろん短いという意味ではありません。
不足という意味なのかと思っていましたが、それも違いました。
「short」は経済用語で「空売り(からうり)」の事でした。
なので『大脱走』がありなら『大空売』が本来は正しい気がします。サブタイトルもいらない。そんな痛快な話じゃないしどこも華麗じゃないし…。

日本はこれ以前に「不動産バブル崩壊」を経験しているじゃないですか?なので意外でもなんでもないんですよ。なのにアメリカでバブル崩壊を想定できないって理解できないわって感じるんですよ。
リーマンショックってそんなに?って思いませんか?
日本はバブル崩壊以後ずっとずっと不況だったから💢なせいですが、リーマンショックは他国の経済的ダメージに比べて「大した事なかった」と思います。金融業に従事していない、大手企業の重役でもない、かつ株とか為替取引などもしていない末端の庶民にとっては、リーマンショックの被害の実感はあまりないですよね。

経済だけじゃない。
この映画には戒めがあります。
「ずっと勝ち続けていると負ける事が想像できなくなる」
セレーナ・ゴメスが本人役で登場するギャンブルのシーンでは、何度も勝ち続けていると「勝つ確率)が高くなると思い込みがち。でも「次の一戦」の勝率は常に一定である。赤か黒かの2択なら、1/2という事。希望的予測は無意味であるばかりか目を曇らせるという事。


東日本大震災の時、イスラエルのガザへの爆撃開始など、世界的な悲劇が起こっても、トレーダー達には対岸の火事どころか、大儲けのチャンスなんですよね。人の不幸で喜んで金勘定に暇のない人達がいる。なんて残念な…と思っていました。

AAのCDSを大量に買付け、正規の大博打に打って出たとはしゃぐ若者二人をピシャリと戒めるベンの言葉に胸を突かれます。

「もし我々が正しければ、国民は家や仕事や老後資金を失う。年金もだ」

しわ寄せは常に弱者に向かう。
経済危機の結果、800万人が失業し、600万人が家を失った。数字にされてしまったこのデータの一人一人に人生があるのです。

結果…国は税金で銀行を救い、銀行家のトップはその税金でボーナスをもらった。
ああ、やっぱり日本と同じ。

そうなのだ。誰かの得は誰かの損の上に成り立っている事。経済とはそういう仕組みの事なのだから。

映画は問う。ユーモアに乗せた怒りをもって。
失業し、家を失った人々に、銀行は責任を取っただろうか?否。と。

本作のプロデューサーでもあるブラッド・ピット。
「銀行の重役も誰も責任を取っていないという事実に、怒り心頭だった。だからこの物語を伝えることはとても大切だったんだ。無責任にお金を稼げる構造が今なお存在している。これからも警戒しなければならない」
彼の心意気に拍手。
なんて素晴らしい俳優でありナイスガイではないか!

ところで日経225の値段なんかもうこれはバブルなんですよって思うんです。そろそろ弾ける兆しが見えてきたような…

*エンドロールの曲はLed Zeppelinの『When the Levee Breaks』 雨が降り続けば 堤防は決壊するだろう 堤防が壊れれば、俺には居場所がなくなる って言う歌詞です
月うさぎ

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