月うさぎ

ビバリウムの月うさぎのレビュー・感想・評価

ビバリウム(2019年製作の映画)
3.3
シュール系かと思いきや、予想に反してホラーでした。しかしハラハラドキドキはしません。むしろ淡々と事態が進行していく不穏な世界観。
タイトルのvivalium と冒頭のカッコウの托卵映像で、最初からこの映画、ネタバレしてるから内容に触れてもいいですよね。

人工的な生存空間において監視される生活を強いられる「不自然」さと
それに反して人間的価値観からは非道に見える托卵が、「自然界」において奇異ではないのだという指摘。
(冒頭でカッコウのダーゲットにされた鳥の雛の死骸をみて、ジェマが「必ずしもそれは酷いことではない」と言うのは、皮肉にもこれを暗示している。自分の問題でなく科学の立場からすれば、その通りなのだ)

托卵する側としたら、自分の子孫を残すのにそれが最適な方法だと考えているだけの話。
人間は精神的な存在なので「生存率」や「種の存続」という当たり前の存在目的を見失いがちである。仕事そのものが生存でなく生きる目的だったり、恋愛と性交が繁殖を意味しなかったり。
でもそのような「価値観」を他の生物が理解するだろうか?
というのがこの映画のテーマ。

人間を托卵のターゲットにしているのは知的エイリアンらしい。擬態と時空操作を得意とする。人間の中に紛れ込んでターゲットを取得するだけで、人間を滅ぼそうとか地球を乗っ取ろうとはしていない。なのでSFでもない。単に繁殖して種を残したいだけ?人間より短命らしいし。

ストーリーは単純。結婚してマイホームを持とうと計画しているカップルが分譲住宅地の「理想のマイホーム」に連れて行かれて、監禁状態にされ、子育てを押し付けられる。
このラビリンスから脱出は可能なのか?

キーワードはHOME。この「家」が実はビバリウムなんですね。
適温に管理され自然と切り離され、外敵もよそ者もいない、餌は自動的に補填される。
生存環境としては申し分ないのだが…。

この「巣箱」から自由意志で出ていけない事、管理されている気味悪さ、他者とのコミュニケーションの断絶という、社会的存在としての人間性の剥奪という問題に加えて、人外の子どもを押し付けられる理不尽。
こんなの人間が耐えられる訳ない。

と思うと安部公房の「砂の女」を思い出すけれど、そんな哲学的なものもない。

私は、美しいアートのようなアクアリウムを見るにつけ、水槽の中の魚たちはどう感じているのか考えるんですよ。
実はとてつもなく狭い世界に閉じ込められている事、鑑賞の対象になっている事に少しでも気づいているのだろうかと…。
完璧な管理の中での安心安全な一生と、捕食の恐怖や飢えや自然の猛威に耐えて自由に生きることと、彼らはどちらを歓迎するのだろうか?と。

これが人間なら…

ジェシー・アイゼンバーグが出てなければ観なかった映画ですが、彼でなくても全く問題ない(もっと平凡な善人タイプの方が合っている)内容でした。😅
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