もっちゃん

隠し砦の三悪人のもっちゃんのレビュー・感想・評価

隠し砦の三悪人(1958年製作の映画)
4.5
個人的「黒澤映画ナンバーワン」の作品。もう非の打ち所がない完璧な娯楽映画である。

周知のようにのちに「スターウォーズ」シリーズへとオマージュされていく今作であるが、何がルーカスの心を動かしたのだろうか。今作の最大の見どころは個性的なキャラクターたちの活写である。兄貴質で忠義心の強い六郎太(三船敏郎)の脇を固めるように頼りないがどこか憎めない百姓二人組太平と又七、そしてわんぱくな姫君雪姫、さらに六郎太のライバル兵衛といった主要メンバーたちはみなどれもキャラが立っていてそれだけでも面白い。

特に百姓の二人組の立ち回りが今作に良いテンポを生み出している。目先のことにとらわれ→六郎太をピンチに追いやり→許しを請うという一連の流れが何度も繰り返されるわけだが、その流れによってストーリー展開にテンポが生まれ推進力となっている。彼らは物語の回し手なのだ(ということは「スターウォーズ」における回し手はR2-D2とC-3POだろう)。

冒頭の穴掘り労働のシーンなどは膨大のキャストと引きのショットで大迫力の映像を作り出している。さらには隠し砦の山岳地帯における下からのアングルショットは画面に背景のダイナミズムを生んでいる。黒澤監督の巨匠たるゆえんは「ダイナミックな映像表現」と「表情豊かでコミカルな演者」が見事に両立している点にあるんだろう。

そして歴史的なシーンである「火祭り」の場面は表現しがたい力強さを帯びている。ごうごうと燃え盛る火柱を囲んで、悲壮感にあふれた表情を浮かべる太平と又七、終始しかめっ面の六郎太、一人だけ楽しそうな雪姫。そんな表情とは対照的なコミカルな踊りがまた絶妙なコントラストである。

おそらく井上雄彦『バガボンド』は多分に今作に影響を受けている(もっと言えば黒澤映画の技法を取り入れているのだろう)。冒頭の落ち武者のように放浪する太平と又七の描写も武蔵が初めて戦に出た時のシーンに酷似している。さらに言えば、今作で情けない役回りをこなした「又七」を『バガボンド』においては「又八」がなしているのもまた興味深い。さしずめ、武芸達者な六郎太が武蔵のモデルといったところか。