このレビューはネタバレを含みます
犯人が快楽殺人鬼でもない限りは、探偵小説の動機は権力闘争か痴情の縺れ。
本作は痴情の縺れなのだけど、いやこんなに縺れる事ある?
本作の被害者は、平成で言えば伊藤誠レベルの性欲クズ。
痴情の縺れ&犯行のトリックに加えて、登場人物の名前が昭和中期の馴染みの薄いものである事もあり、相関関係がかなり複雑。
思いっきりネタバレしますけど、本作のトリックは「顔のない遺体」と「一人二役」の合わせ技。
どちらも、探偵小説の基本的なトリックだろう。
原作小説の悪魔の手鞠歌が掲載されていた「宝石」の編集長は江戸川乱歩。
この二つのトリックは乱歩も何度か使用したくらいには王道のもの。
だから退屈だ、という事はなく、寧ろ探偵小説の王道というか、横綱相撲を見せてもらっているような気分になる。
「何屋の娘が誰だっけ?」みたいな混乱はしつつも、ドラマはきっちりしてて、この時代の映画らしい人情味は感じる。
田舎の陰鬱さみたいなのは、前作の犬神家が上だったな。
あと、昭和中期の時代設定は、「以前の資料は戦争で全て燃えてしまった」という力業が使えて便利だなと。
異世界への転生が流行っているようだけど、それよりみんな昭和へ。
密室トリックに「スマホ対策」はしなくていいし、化総研がゴリゴリの現場検証しないし、都合の悪い資料は戦争で燃やせるよ。