櫻イミト

死の王の櫻イミトのレビュー・感想・評価

死の王(1989年製作の映画)
4.0
12年目の3.11に鑑賞。

ドイツの鬼才ユルグ・ブットゲライト監督が「ネクロマンティック」の1と2の間に撮った”死”がテーマの作品。

月曜~日曜の7編の死のトピックを連ねる。間に男の死体が腐敗していく様子の早回し映像が挿入される。
月 辞職した男が金魚と服毒自殺
火 VHS「ゲシュタポ死の天使」をレンタル
水 土砂降りの中で少女の前で自殺
木 自殺の名所の橋に飛び降りた人々の名前字幕
金 近所のカップルを窓からのぞく独身女性
土 ハーネスにカメラを装備した女性が銃殺撮影
日 ベッドで泣きわめく男が壁に頭を打ち付ける

「ネクロマンティック」と同じく低予算自主映画だが、各パートともアイディアを凝らし、腐敗していく死体は精巧に出来ていてまるで本物の様(豚の臓物を使用)。

監督インタビューによると「死を理解したい」のが制作動機とのこと。シナリオには自殺や連続殺人に対する知的な考察が垣間見えて(青臭くはあるが)こけおどしで作っている訳ではないことは伝わってくる。

挿入される架空のVHS「ゲシュタポ死の天使」はタイトルも内容も悪趣味そのもの。ドイツ人が作ったことにも意味を感じる(ドイツでは上映禁止とネガ焼却処分を命じられている)。

”不謹慎”という曖昧なレッテルで切り捨てるのではなく、死の客観化への試みを評価したい。低予算自主映画が30年後にも他国で鑑賞されているのは凄いことだと思う。真似できそうでできないことであり、作品に力があるということ。クリエイティブ精神が刺激された。

※死体腐敗の早回し映像は明らかにイギリスのグリーナウェイ監督「ZOO」(1985)からの影響を受けている。
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