宇尾地米人

バルカン超特急の宇尾地米人のレビュー・感想・評価

バルカン超特急(1938年製作の映画)
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 これは映画にはまっていくきっかけになった一作で、映画っていうのは面白いもんだなぁと思わされました。原題だと『貴婦人の失踪』または『消える女』。走行する車両で主人公の若い女性が目覚めると、先ほど知り合った友人の貴婦人がいなくなっていた。「連れの人を知りませんか」と聞いても、乗客乗員誰もが「そんな人最初からいませんよ」「あなたはおひとりでしたよ」と言ってくる。そんな冗談笑えませんとムキになって探してみるも、どこにもいない。なんで?どういうこと?記憶障害や幻覚なのではと疑われる。そんなはずない。この列車のどこかにいるはず。調子のいい男と協力して調査に回る。消えた貴婦人はどこに。この事件の真相は。

 ということでヒッチコックの映画で一番好きです。移動する密室舞台。不思議に挑む男女。「何だろう何だろう」を誘発させていくミステリー、サスペンス。推理小説やヒッチコック作品の中身を晒すようなことはナンセンスですが、これは活劇の面白さ、スリルの切れ味、映画のお手本のような名作です。マーガレット・ロックウッドとマイケル・レッド・グレイヴがとてもいい。列車内を歩き回り、訳ありそうな乗客相手に手掛かりを探っていく姿。そしてどんどん困っていく。本当に記憶違いか何かだろうか。諦めそうになったそのとき車窓に浮かんだ貴婦人の名前。ああやっぱり確かにいたはずだ。そして意気を取り戻し、この列車内のホームズとワトソンになっていく二人。この人捜しのサスペンスでどんどん引き込んでいきます。これから列車でどんなことになっていくか。是非ご覧になってもらいたいですね。

 消えた乗客、一生懸命な人捜し。現実に起きたら怖い話ですが、このアイディアは再映画化されたり、ヒントにされたり、いまでも注目され大切にされているものですね。エセル・リナ・ホワイトの推理小説を、ヒッチコックが映画にして見せた。それがどれだけ気掛かりで面白いものか。近頃のサスペンスものを好む方も、映画ファンなら改めてヒッチコックの作劇、演出、スリルを楽しみつくすことで観たり読んだりする感性が培われていきますね。
宇尾地米人

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