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萌の朱雀の教授のレビュー・感想・評価

萌の朱雀(1997年製作の映画)
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随分と久しぶりに観返してみて、最初のシーンからいきなり10年ぐらい時間が飛ぶことに驚いた。

眩しいほどに光っていた奈良県の吉野の山村が、一気に薄暗くなる。
村も家屋も人も変わらないのに(子供たちは大きくなっている)時間だけが過ぎている感じ。

毎日同じように流れていく時間。
ラジオはあるけどテレビもない家。
同じような時間の中で着実に過疎化し、寂れていく。

初期の是枝映画のルックに非常に良く似ていながらまったく異なるのは家族の中に流れている感情だ。
限られた人間関係の中で、何かを語らうでもなく、当たり前のように存在しながらそこにどこか近親相姦的な繋がりすら感じさせる。
あるいは恋愛的というべきか。
この家族の中にある親愛とエロスに踏み込んだ描写が河瀬監督の物凄さであり、僕が苦手とする是枝裕和との大きな違いだ。

従兄妹との関係だったり、嫁ぎ先の姉弟の関係だったり。
その中でずっとおばあさんは天を見るように何かずっと遠くを見ている。そして父である國村隼は無口に何か思い悩んでいる。
そして、失踪してしまう。
なのにカメラは尚も変わらぬ日常、暮らしを映し続ける。
確実に何かが変わっていく家族と、その村の暮らしなのに、何も変わらずに映している。

画面上、残酷なほどに何も起こらないのに、その中に生きている人々は静かに苦悩を深めていく。静かな時間は、ちっとも安らぎではなくなんとも残酷に好きな人との別れを紡いでいく。

カメラはある意味でその人々を見つめるなんとも無常な神様の視点である。

ラストの父親が残したものは、まさにその流れていく時間への反逆として、変わらないものを映しておいた、ということなのだろうし、それがつまり「映画」の力だと言いたげである。
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