今まで観てきたミュージカル映画の中で、マイベスト。
華やかなショービズの世界において、たまたま機会を得て集い、畑違いだという意識から互いに対立したりぎくしゃくしたものを感じながらも、一つのものを作り上げていく。興行的に失敗すること、忘れ去られることに対する恐れ、あるいは高尚な文化というものに対するコンプレックスと、自分の作り上げるエンタテインメントに対するプライド。そしてあのエンディング。すべて、ハリウッドという場に集った作り手達の本音に他ならないだろう。主演のフレッド・アステアが相手役シド・チェリシーの身長を気にしたというのも事実らしい。一方チェリシーはアステアへの畏敬から必要以上に緊張していて……全くあそこで描かれていることは事実が含まれているようで、驚かされる。
同じMGM製ミュージカルの代表作スタンリー・ドーネンの『雨に唄えば』もハリウッドスターのスター性(才能、華やかさ)に対する賛美が全編を支配していた。あれも一つの作品を作り上げるまでを描いた映画であり、劇中の映画が成功するかどうかが(実は)ストーリーの中核に据えられている。そんな『雨に唄えば』からの台詞……まだ芽が出ていない若手女優のキャシーがハリウッド俳優のドンに投げかける「あなたはフィルムの影じゃない!」という言葉が思い起こされる。
フィルムの陰影に過ぎない彼らの、瞬間的な輝きが画面に焼き付けられる瞬間、それを目にしたとき、内側から溢れる感動は抑えがたい。
また、歌はないが、Dancing in the darkの場面はため息が出るほど美しかった。エモーションの高まりが非日常的な世界へ流れ込んでいく瞬間の愛おしさ。ミュージカルとは、歌うかどうかではないのだ。