ガンビー教授

IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。のガンビー教授のレビュー・感想・評価

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ちょっとくどいぐらいに「結末が気に入らない」というメタ的な言葉が繰り返される。認めるが、たしかにドラマ版ITの後半は精彩を欠いていた。尻すぼみであり、面白くはなかった。

ただこの3時間を超す、実質的にドラマのリメイクであろうと思われる映画を見て気づいたことがある。あのドラマシリーズ後半の魅力のなさはそのまま、登場人物たちの、どこか思い描いていたものと違う、決して順風満帆とは言いがたい人生のありようと妙に呼応してもいたということだ。

そしてその人生の陰影を描くうえで重要なポイントになっていたのがスタンというキャラクターだったと思う。大人になるにつれわれわれは他人の死に接する機会が増える。友人や知人の死。そしてそれは時として、けっして周囲の人々が納得できるようなものではない形でもたらされることもある。そういった人生の生々しさみたいなものは、原作者キングのエッセンスではないかと思う。

ドラマ版で僕が好きだったのは、図書館に集まった登場人物たちが冷蔵庫?みたいなものを開けるとその中に自殺したはずのスタンの生首が入っていて、そいつが喋り始める場面である。彼らひとりひとりの実人生について順繰りに、冷や水を浴びせかけられるように言われたくないことを言われていく。描写のチープさはあるが、あの”嫌な感じ”はよく印象に残っている。

この映画版ITでは、「そんなところもやるのか」とちょっと驚くような部分がリメイクされていたりして(中華料理屋のシーンとか)、そのひとつひとつの描写を楽しむことはできるけど、さっき挙げた場面の再現はない(代わりに遊星からの物体Xチックな生首の変身はあって、まあ面白いっちゃ面白い)。あれがないこれがないとか言い始めたらきりがないが、この部分が削られているのはドラマ版と映画版を比較するうえで本質的なポイントじゃないかと思う。あの結末に持っていくためにあえてそうしたんだろうけど、あのスタンの扱いは無理があると思う。人生の清濁みたいなものがずいぶん美化されている。彼らの実人生の物語も、分量としてはそんなに取りこぼしていないはずなのに、不思議と後退した印象がある。

で、まあビルの妻の話とかは面白くなりようがないんでばっさり切ったのは間違ってないと思うんだが、あの元いじめっ子の要素とかあそこまで忠実にやるんだったらもうちょい膨らませてもよくないか? 膨らませようがあるならあのキャラクターでは?
この映画、3時間という長尺を必ずしも丁寧に使っているとは思えないところがある。冒頭のゲイカップルと、頬にあざがある女の子と、ビルの家に住んでた男の子と、あれらのシーンひとつひとつにそんな必然性があったとも思えない。少なくとも減らせる。

あと肝心のホラーシーンについても、これは物語のテーマ性とも結びついてるからしょうがないんだけど、本質的にここでの”恐怖”とは「ベロベロバア」でしかないということ(これは作中でキャラ自身がツッコんでる)と、この長尺を引っ張らないといけないということについての対策があまり積極的にはされてないので、どことなく単調に見えてくるのは否めない。

「誰もが気に入らなかった結末をリライトしました」それは分かるんだけどね……感想としてはそんなところ。
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