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野菊の如き君なりきのtsのレビュー・感想・評価

野菊の如き君なりき(1955年製作の映画)
4.0
野菊の墓を読んだ時、なんて儚く切ない物語なのだろうと感じたけれど、涙を流しはしなかった。それは自分の想像力が足りていなかったのかもしれないし、自分がまだ幼かったのかもしれない。でも、今回は終始、心の中の琴線がずっと震え続けるような感覚を覚え、その振幅が最後のシーンで一気に大きくなって、字面の通り、嗚咽しながら泣いてしまった。なんて切ない物語なんだ。。。

そしてただ悲しいだけではなくて、老人の回想という設定を取ることで、この映画はすべてを受け入れさせてくれるような温かい郷愁に満ちているように感じた。過去に叶えることのできなかった恋を思い返すことの美しさにあふれていて、野菊の墓のようなすごい経験ではないものの、自分もつい、そんな記憶を主人公と同じように振り返ってしまった。そうすると、実らなかった恋であったとしても、不思議と愛おしく感じられるようになるから驚く。これが年を重ねるということなのかもしれない。

あと、ところどころに挿入された歌の句の美しいこと! これって原作にはなかったと思うのだけど、歌人だった伊藤左千夫の句なのだろうか。こんな悲恋である必要はないが、昔の日本人の心の美しさを改めて認識させてくれる作品。また良くも悪くも、人間の意地の悪さや情の厚さが様々な言動に表れていた。現代では失われつつある人間臭さが感じられて、とても印象的だった。
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