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フィッシュストーリーのtsのネタバレレビュー・内容・結末

フィッシュストーリー(2009年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

めちゃくちゃおもしろい!

伊坂幸太郎は何作か読んだことはあるけれど、「フィッシュ・ストーリー」は読んだことがなかった。ただ、他の作品のように、不思議なストーリー設定と綿密なプロット、多様な伏線、最後の伏線回収含め、伊坂ワールド、という表現に尽きるお話。

話の内容自体は突拍子もない SF といっても過言ではないので、たいていこういうストーリーが邦画として映画化されると妙な安っぽさと SF にもなりきれないし、コメディにもシリアスにもなりきれないという残念感が出てしまう作品が多い印象だけど、脚本もシーン構成も素晴らしく、この作品の立ち位置をどうしようか、という決めがしっかりしていて、違和感なく安心して最後まで没入できた。

あと役者さんもとてもよかった。こういう作品はやっぱり舞台的な役者さんがいるとしっくり来る気がしていて、石丸謙二郎のねちねちしたわざとらしい演技(というと語弊があるけど)が、この作品のフィクション感満載の雰囲気にとても合っていた。みんな演技がうまいので、コメディ色の強いこの作品を決してチープな仕上がりにしていないんだろうなと思った。ただ、伊藤淳史は人の良さが前面にでてしまっていて、反抗的な表情は出ていたものの、いざ口を開くと、パンク・ロック・バンドのリーダーっぽさがあまりなくて、ちょっと笑ってしまった。

この作品をどう捉えるかはもちろんその人次第だけど、自分にとっては「夢を持ち続け、自分たちの音楽性を貫き通したとあるパンクロック・バンドの物語」だった。なので、もちろんレイプ事件も起きないし、シージャック事件も起きないし、ばかでかい彗星がやってくることもなければ、そこに誘導ミサイルだかなんだかを打ち込んで粉砕させることもない。「逆鱗」というバンドが「フィッシュ・ストーリー」という曲に込めた思いとほら話的な夢を描ききった作品なんだと思う。

なので、すごく甘酸っぱい青春もののようだった。なかなか好きなことやってるだけでは食べていけない、のは音楽の世界ではとにかく「あるある」で、それを題材にした作品は世に五万とあるけど、この作品はある意味潔くて、こんだけお馬鹿な空想をお酒飲みながらゲラゲラと話し合って、そんな風になるとイイね、と夢を語り合う若さにあふれていた。

仲間と何かを一緒に作って、それが本当に何の意味があるんだろうと不安になる時期があったことも共感できる。でも、それをひとつのほら話を通じて貫き通す、青臭い勢いがとても心地よかった。

おもしろかった〜。

中村義洋監督と伊坂幸太郎の組み合わせにすごく期待してしまったので、次は「アヒルと鴨のコインロッカー」を観てみよう。
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