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ルワンダの涙のakrutmのレビュー・感想・評価

ルワンダの涙(2005年製作の映画)
5.0
ルワンダの首都キガリにある公立技術学校を舞台に、そこに赴任しているイギリス人の神父や教師、そして国連平和維持軍として駐留しているベルギー部隊など、白人の視点からルワンダ虐殺を描いた、マイケル・ケイトン=ジョーンズ監督のドラマ映画。ずっと以前に見たときに衝撃を受けた作品で、たまたま中古DVDを見つけたので購入。

BBCスタッフの実体験を元にした脚本、そしてルワンダ虐殺を実際に経験して生き延びた多くのルワンダ人がスタッフとして参加して、実際に虐殺が起こった場所で撮影をするなど、徹底的にリアリズムを追求した映像は衝撃的。ちょっとしたきっかけから発生した群集心理によってこれだけ簡単に人を殺せるのかと驚愕するとともに、それを目の当たりにした白人たちの恐怖がひしひしと伝わってくる。虐殺が始まる前の平穏な日常からフツのハビャリマナ大統領の暗殺をきっかけに徐々に不穏な空気になっていく様子の描写も見事である。ルワンダ虐殺を描いた作品としては『ホテル・ルワンダ』のほうが有名であるが、個人的には本作のほうが優れていると感じる。

技術学校に避難しているツチの人々を見捨てて国連軍(や白人たち)が撤退する際にイギリス人教師と彼を慕っていたルワンダ人少女のやり取りや心情、絶対的に無力だと感じながらも自分を奮い立たせる神父、撤退しようとするベルギー軍に対して避難しているツチの人々が申し入れる要望など、心に残る印象的なシーンも多い。個人的に最も印象に残ったのは、BBCの女性記者が呟いた言葉。前年にボスニアを取材したときに同じような経験をしていて、そのときは毎日泣いてばかりだったのに、ルワンダでは涙が出ないのだと。その理由は、国連がルワンダ虐殺に真剣に向き合わなかったことと根底ではつながっているし、現在のパレスチナ・中東情勢に対する欧米の微妙なスタンスにも表れていると思う。

ちなみに、本作で描かれているルワンダ虐殺はおおよそ3ヶ月後に、ツチのルワンダ愛国戦線が、虐殺を主導したフツ過激派を武力で排除してルワンダを制圧した。そこで素晴らしかったのは、フツのビジムング大統領とツチのカガメ副大統領による挙国一致内閣を樹立して、出身部族を示す身分証明証の廃止や女性の権利拡大など、様々な差別を禁止する政策を推進した点であろう。その結果、カガメ大統領の独裁と批判されることもあるが、現在ではアフリカの中で最も治安が良い国とされるほどになったのである。
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