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コースト・ガードのnetfilmsのレビュー・感想・評価

コースト・ガード(2001年製作の映画)
3.8
 南北間の軍事境界線となる通称38度線、ここで兵士たちは夜通し脱北者を監視している。その境界を超えた場合は、彼らの主張を聞かずとも躊躇なく撃ち殺される。海兵隊に出兵した若き男カン(チャン・ドンゴン)は、功を挙げて誰よりも出世しようと鼻息荒く訓練に臨んでいた。ある日の軍事境界線内、彼は岩場の陰で蠢く一組の人影を目撃する。脱北者に違いないと考えた男は躊躇なく対象者の頭部めがけて、機関銃の弾をこれでもかと何発も撃ち込むのだ。しかし彼が射殺した人影は、酒に酔っ払っただけの近所に住む若者だった。情事の直後に果てた男の返り血を浴びながら、女はただただ恐怖に恐れ戦いていた。男はやってしまったと顔面蒼白でその場に立ち尽くすのみだ。それが男と女の出会いだった。だが民間人であったとしても、任務を遂行した男の行動は称えられ、上等兵に昇進する。男は名誉の人と称えられ、1週間の地元への帰還を許されるが、彼の心は少しも晴れることがない。

 元海兵隊出身のキム・ギドクは、欺瞞に満ちた軍隊組織の嘘を明らかにする。戦争映画の舞台は緑色のジャングルと相場は決まっているが、今作にはせいぜい背の低い草むらしか出て来ない。眼前に広がるのは沿岸に浮かぶ寂れた島と、夜7時から監視する境界線のぞっとするような静けさだけである。そして信じられないことにカン上等兵も、恋人を殺された女も、追い出しても追い出しても狂ったようにこの水辺に何度も戻って来てしまうのだ。軍人は自分たちの悪行を隠蔽し、薄汚い強姦の事実をも破棄しようとしている。しかし女の腹に出来た新たな生だけが、彼らの醜い所業を告発する。一人の脱北者も見逃してはならないとする鉄の掟が隊の足並みを徐々に狂わせていく様子は、直視出来ない現実としてフレームの中に横たわる。まるでスタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』のように、狂気は人から人へと伝播していく。狂気に向かってひた走るチャン・ドンゴンの目力が凄まじい。半狂乱に陥った女はあえて狭い箱庭のような狭い装置の中に入り、笑いながら男の罪を呪い続けるのだ。
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