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まわり道のnetfilmsのレビュー・感想・評価

まわり道(1974年製作の映画)
3.7
 ヘリコプターから空撮された湾岸都市グリックシュタットの風景。海岸線はギザギザに縁取られ、その枠内には色とりどりの住居の屋根がびっしりと敷き詰められている。この地にあるヴィルヘルム(リュディガー・フォーグラー)の家はいかにも中流家庭で、階上から人の往来を眺めていた彼は老夫婦の背中を見て、ふいに窓ガラスを叩き割る。ガラスの破片で裂傷を負った手で、青年はTHE TROGGSのレコードの針を上げる。ガラスの割れる物音に母親は何事かといった形相で、ノックもせずに彼の部屋にやって来ると、青年の目には涙が伝うのだ。その瞬間、母親は決心を決める。過保護に部屋の中で幽閉されていた作家志望の青年は母親に促され、彼女の用意した旅支度で家を出る。切符の手配も全て母親がしてくれ、ハンブルクを経由して一路ボンへ。列車に飛び乗った青年は床の上に垂れた真っ赤な血を目撃する。少女はなぜか彼の方をまっすぐに見つめたまま目線を外そうとしない。出発した列車の窓から風景に目をやる男は、対向車の車両から身を乗り出した美しいテレーゼ(ハンナ・シグラ)としばらく見つめ合う。

 ヴィルヘルムの旅は、その行く先々で様々な奇妙な人々の好奇の目に晒される。ラエルテスは元ナチの老人で、鼻血を拭きながら、孫娘のミニョン(ナスターシャ・キンスキー)と彼の後をどこまでも着いて来るし、運命の出会いを果たしたテレーゼともやがて再会を果たし、良い関係を築く。しまいには彼の詩に魅せられた詩人死亡の青年ランダウまでがこのロード・ムーヴィーのパーティに加わることとなる。旅の中でヴィルヘルムは幾つもの個性的な仲間と出会い、共に南下し当てのない旅を続ける。図らずもそれはドイツの栄光と没落を巡る旅となる。かつてナチスの幹部だった男の鼻からはとめどなく赤い血が流れ続け、数か月前、妻を失った豪族は自害し、すっかり弛緩した肉体は暗い中残念な姿をさらす。ライン川を見下ろす急な山頂の風景はあっという間に都市の冷たさに打ちのめされる。賑やかな方が良いと思ったはずのヴィルヘルムはたった一人で孤独に山を登るが、頂きに立った主人公の眼前に奇跡は待っていない。原題の「Falsche Bewegung」は邦題の「まわり道」とは微妙にニュアンスが異なる。そもそも彼の旅は最初から母親のお膳立てによるもので、自発的な旅ではなかったのだ。
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