jonajona

それでもボクはやってないのjonajonaのネタバレレビュー・内容・結末

それでもボクはやってない(2007年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

(電車で痴漢『らしきもの』を目撃した時の極私的拙文です。内容とは似て非なる下世話なものなので嫌になる人もいるかも知れない。お気を付けて下さい🙏)

この前、電車で女子高生の後ろに立つサラリーマンを見てしまった。
はて、と思った。
電車内はそこそこに混雑してて密集状態なのはあったので距離が近いことは不思議じゃない。違和感を覚えたのはあまりに真後ろに立ってて下半身が手前の女子高生のスカートに当たりそうな程だったからだ。

…痴漢か、と思って少し全身をまじまじと観察した。文章で書くとそれはどう見ても痴漢だ!と思うかも知れない。けれど僕はその段になっても可能性の域を出ないと感じてた。意外と分かりづらいのだなとその時初めて痴漢について実感を伴って考えることになった。

混雑して僕も手前のおじさんのケツに手が当たってたし、女子高生の手前には少しスペースがある様にも見えた。逃げたければ逃げれる。逃げないのなら、彼女は『当たってない』と感じてるということになり、当たってないのなら当ててないのだろう。

女子高生は本を読んでおり、全く気にも留めてない様に側からは見えた。
だとしたら?…僕の思い過ごしなんだろう。よかった。もし痴漢なら止めに入らなきゃ行けない。(咄嗟に女子高生の心配より厄介ごとに巻き込まれる煩わしさの方が勝った)

大きな駅に着き人の波が電車からでろでろと溢れてホームに流れた。車内はかなりがらんとした。僕は目を疑った。サラリーマンはまだ彼女の後ろにいた。本を片手に吊り革を握る女子高生の後ろに。

おいおいおいおいおいおいおい、おいおいおいおいおいおいおいおい。
(『岸辺露伴は動かない〜富豪村〜』で仰け反り文句を言う岸辺露伴風)

痴漢の可能性は明らかに高まった。車内は立つ人も疎らにいるものの、女子高生の隣にも移動するスペースは十分ある。なのに中年サラリーマンは真後ろであいも変わらず彼女のスカートに当たるかほどの距離で立ってた。

極めて怪しい状況が確定したので、次にふたりの表情を見ることにした。あえて近付いていきまじまじと横から眺める。
というのも女子高生が内心恐怖してるが人に助けを求める声も上げられない状態なら、自分に何かせめて目配せでもしてくるだろうと考えたからだ。
僕は自慢じゃないが車内で人の事を見回すのが趣味なので、大概の人間が他人の視線に異様なほど敏感に反応することは知ってた。何か作業をしてても人の視線は不思議とわかるものだ。
それと、人から見られてると意識すれば本当に痴漢の自覚があるなら勿論通報されるのを恐れてサラリーマンも止めるだろうという読みもあった。関わりたくはない、けど性分として目も離せない。戸を開けて蚊が出ていくなら叩き潰す手間が減る、暫定的手段だった。
頭の中はこの時いろいろなパターンの展開を予想して目まぐるしくなってたと思う。下手をすれば(上手く行けば?)僕は痴漢から少女を助けなければいけないことになる。映画の中では『電車男』のように恋物語の導入として機能するが、現実ではそうはいかない。腹に力を入れる必要がある。

結果は、両者とも全くの
無反応というものだった。
反応なし。無反応ということは先程説明した通り、両者ともに偶然近いまま車両が空いても体を動かさず立ってる可能性が高まる。女子高生は本を読むのに夢中。サラリーマンは疲れて周囲が移動した事を意に介さずただ吊り革にしがみつきたい。そういうことだろう。未だに電車が揺れると彼女のスカートにサラリーマンの下腹部が当たってるように側からは見えるが。

はて、と思った。
そこまで考えてまた、違和感を覚えた。
あまりに女子高生が無反応だったからだ。彼女が全くの無反応なんてことはほぼありえないのだ。
僕はかなりの近さにいた。人1人分の隙間を開けて女子高生の隣に立ってた。そこから横に顔を向けてマジマジと覗き込んでたので、これでどちらも僕の存在に気付かないのはおかしい。
特に女性は視線に敏感で気にするものだと思ったが、全く意に介していないように見えた。
サラリーマンが無反応なのはまだ分かる。これは彼が痴漢だった場合でも、全くの免罪者であってもあり得る反応なのだ。
しかし彼女の無反応が意味するところは、僕には『視線に気づいていない』というポーズに見えて仕方なかった。

自分の中で考えてた物語の形が変わろうとしていた。それは一見あり得なさそうなことだけど自分の見たものを感覚的に受け入れるなら1番可能性が高いものだった。痴漢有罪説、痴漢冤罪説、そこに新たに加わる第3説。

痴漢プレイ説という、新規軸。
2人は楽しんでるのかも知れない。実は目の前のこの子は女子高生では無く制服コスプレをした夜の個人事業主で、後ろはその顧客という寸法だ。

お互い同意の上だとするとこれまでの違和感が不思議とすっと落ちる気がする。
そもそも体を押し付けられてる状態で手前に動けそうな場所があるのに動かない。
表情をつぶさに観察したが本に集中してる様に見えて一度も周囲に助けを求める目線を向けなかった。普通に考えたら何を見てる?と怪訝な顔をされる程眺めてたのにサラリーマンもましてや女子高生も無反応。
全てはプレイだったのなら、助けを求めないのも逃げないのも納得!
流石変態大国ニッポン!!本当に電車でプレイやってのける阿呆もいるのか!

考えてるとかなりリアリティがある様に思えた。ここは大都会東京。東京に来てから明らかにコスプレの偽女子高生ギャルの姿を何度も見た事がある。ここはそういう人もいる。そのくらいの話沢山転がっててもおかしくない。感心したのち横を少し離れて吊り革を握り携帯をいじってると電車は次の駅に着いた。

女子高生が駆けて出て行った。

足早なその姿を見送りながら、この親父は一緒に降りないのか?と思い、僕はやはりアレが痴漢だったのではないかと不安になった。

サラリーマンは何食わぬ顔で携帯を触っていた。




いくらかの数少ない女友達に『大概の女は痴漢にあったことある』と何度か聞かされた。コミュニティも全く違う女性たちに。俺がいたら止める、と笑ったが実際止められなかった。
怖くてパニックだと横から覗く人の視線にも気付けないこともあるだろう。気付いても助けを求めて後ろな奴が何かして来ないか怖くて目配せもできないこともあるだろう。

痴漢かもなと思った瞬間に一応声かけときゃよかったんだよ〜、なにしてんの!と怒られてしまうだろう。彼女達とまた話せる事があれば。会えなくなった人も少なくない。

痴漢冤罪は確かに大問題。本作を見れば一度疑われた人間がいかに冤罪を晴らすことが困難か考えさせられる。

同時に痴漢するやつらがちゃんと捕まればいいなとも思う。捕まえれなくても僕の様な人間が怪しいたびに声を掛けられたら奴は電車に乗れなくなるんじゃないかとも思う。情け無い気分で電車を降りた。
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