よしまる

マジックのよしまるのレビュー・感想・評価

マジック(1978年製作の映画)
4.1
70年代の発掘良品的傑作サスペンス。
脚本は「明日に向かって撃て」「マラソンマン」「大統領の陰謀」など数々のアメリカンニューシネマの名作を送りだしたウィリアムゴールドマン、監督は次作の「ガンジー」でオスカーを総ナメするリチャードアッテンボロー、このふたりが「遠すぎた橋」に続いてコンビを組んでいる。

腹話術の人形を題材にしたホラー、と聞くとついチャッキーのようなものを思い浮かべてしまうが、呪いだとか魔法だとかなんらかの力(笑)で勝手に人形が動きだしてしまうようなファンタジーではない。あ、タイトルの「マジック」は魔法ではなく手品のほう。
人形はただの人形で、あくまで腹話術師が喋り、動かしているにすぎない。

なのに、怖い。

光と影を使い分ける巧みなカメラワークや人形の造形そのものも怖いが、それ以上に一人二役と言っていい、腹話術師アンソニーホプキンスの熱演が怖い。
脇固めの割と地味な若手俳優さんという認識だったが、ここではのちのハンニバルレクター博士が顔を覗かせており、腹話術の技術もさることながら人形と対照的に強調される顔芸が凄まじい。頼りなげで消え入りそうな弱者の顔、自信に満ちあふれ激昂する強者の顔、そして結末へ向かい病に侵されていくかのように変化していくさまざまな表情を存分に楽しめるのだ。

グロ描写や脅かす仕掛けもないので普通に昼間っからお茶でもすすりながらフワッと観ていてもじゅうぶん面白いが、ここはあえて部屋の灯りを消して、自らを映画の中へダイブさせる覚悟を決めよう。