よしまる

犬王のよしまるのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.8
友人とのオンライン鑑賞会、大きく評価の分かれた1本は、湯浅監督の趣味が色濃く出た力作。

ピンポン以来のタッグとなる松本大洋の独特のキャラクター設計、いま一番旬の脚本家のひとり野木亜紀子の起用、そして女王蜂アヴちゃんと現代音楽の大友良英によるロックミュージック、盤石の布陣で挑む新感覚エンターテインメントアニメーション。

と、宣伝文句みたいになっちゃったけれど、どこをとってもクオリティが高く、そして紛れもなく湯浅印。これは裏返すと観る人を選ぶ。

考えてみるに、湯浅の作家性に比べたら細田も新海も(特に近年は)かなり大衆的で、誰もが楽しめる作品になっている。

それに比べてどうだ。現代から始まり一気に室町時代までトリップさせる躍動感、異形の者をサラリと描き切る大胆さ。
アニメーションの表現を常にアップデートし続ける監督ならではのとっつきにくさww
相変わらずの万人受けしにくい作風が気持ちいいのはオタク特有の感覚かもしれない。

メインとなるのはアヴちゃんのロック。
歌が上手いのは当然ながら、表現の幅がすごい。この歌唱無くして成立しない映画と言ってもいい。すなわちこれが受け入れられないと少々見づらい作品でもある。

セリフに音楽を乗せるミュージカルとは異なり、あくまで曲は出し物であり、ショータイム。その意味では歌詞の内容がダイレクトにあらすじになっているわけではないので、その点も消化不良を起こしがち。

そして1番違和感を感じたのは、楽曲が室町時代の音ではないこと。

そのこと自体の是非を問うと言うよりは、やり方の問題かな。和楽器バンドでも連れてきて現代の楽器を一切排除するのもやり方だし、いまの電子楽器てんこ盛りにするならするで、映像なり設定なりに説得力を持たせて欲しかった。

観終わってからサントラを聴くとROCK&POPSとしてめちゃ高品質で、しばらくリピートしてしまったほど。明らかにwe will rock youやbohemian rhapsodyを意識した曲にしても、人を魅了する声を持つアヴちゃんにかかれば見事なオマージュだし、森山未來があんなに歌えるとは知らなくてごめんなさい。
で、ならもっと上手に嘘をついて欲しいなというわがまま笑

ハルヒ以前、ハルヒ以降と言われるように、けいおん!やユーフォニアムなど京アニ作品における楽器の描写がもはやデフォな昨今、バリバリのエレキギターソロが鳴ってるのに適当に琵琶をかき鳴らしてる画ってどうなん?て話。
楽曲のクオリティが高いほど、画と乖離していくジレンマがこの先の音楽英語には付きまとうだろうと思う。

そして物語。重版出来、逃げ恥、miu404と見たドラマは全部当たりな野木亜紀子脚本ということで大きな期待を寄せてみた。
結果として期待が大きすぎたせいもあり彼女独特のエモーショナルな切れ味は感じられなかったけれど、素性も性格も表現もすべてが相反するバディが出会い、のし上がり、訣別し、、という展開はやはり胸アツ!(ただし原作未読💦)

犬王の父との確執、南北朝統一という時代ゆえに断ち切られた哀しすぎる運命。
異なる2人なれど「異形」という意味では互いに共通項を持ち、それぞれの信念に従って弾圧に抗いながらも、結局は、、ラストはネタバレになるのでここまで。

正直、前半犬王が出るまでが長く、犬王の最初の歌もちょっと長くて、やや中だるみ。そこのところはすごく惜しい。

しかし最後に謎が明かされ怒涛のようにドラマが動き、あっという間にエンディングを迎えたときのラストの余韻に、たまらない充足感を覚える。

あー、いい映画を観た!という心地よいエンドロールほど幸せなものはない。
烈しく時代を駆け抜けたふたりの男たちの物語、大好物なり。