皿鉢小鉢てんりしんり

脱走四万キロ/脱走4万キロの皿鉢小鉢てんりしんりのレビュー・感想・評価

3.8
面白い。ロイ・ウォード・ベイカー、イギリス時代にヒッチコックの助監もやったりしているらしいが、まさしくヒッチコックの「観客は待たせるだけ待たせろ」を実に誠実にやっている。ボロボロになりながら雪原を歩いていくクライマックス、切り返しショットがなかなかなくて、主人公に何が見えているのかが気になって仕方がない。歩いてて、水が凍ってないところがあって、仕方なく引き返して、でもボートを見つけて、しかしボートが重くて重くて……みたいなくだりを延々と見せる。
雪玉を投げて、その雪玉の方にカメラを切り替えさずに水音が響く音だけで、渡れる川幅じゃない、っていうのを示す演出とか非常に品が良い。
中盤のオランダ人と偽って色々と誤魔化し続けるのも、妙に段取りが細かくて生々しい。何となく窓際行って窓開けてみつつ、「暑かったら上着脱いだ方がいんじゃないですか?」とか言われ「いや別に」と何となく取り繕ったり……
飛行機で一刻も早く脱出しよう、という時の整備士がだらだら歩いてることへの焦燥感が、主人公のクロースアップと何度もしつこくカットバックすることで見事に伝わってくる。何度切り返しても全然進んでない、という……で戻ってくるのがまた遅く、さらにそっからホース出そうとして、それが絡まって、またほどいたり……
OPの、真下から空を見上げた空襲のショットの幾何学的な絵に表示されていくクレジット、音声はひたすら流れ続ける無線、というのもとてつもなくかっこいい。終盤で機関車から脱出した時に見上げる嘘みたいに綺麗な星空とも対比になっている。