青二歳

還って来た男の青二歳のネタバレレビュー・内容・結末

還って来た男(1944年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

1944年川島雄三コメディ。戦前のコメディはかくも多様なのか。なんともいえない乾いたユーモア、大変美味しく頂きました。なお主演の佐野周二は主人公同様に召集解除を受け帰国しての映画撮影。まさに還ってきた男。

ベイエイゲキメツ(米英撃滅)は珍しい。敵国への攻撃的なメッセージが挿入されるのは戦中の映画では珍しいのです…が…謎すぎる挿入だったぞ…?あのタイミングであの落書き…?
また時勢の反映(少年工や竹槍訓練、家族の戦死、再召集など)もしっかり描写されていますが、なんというか今作は徹底して現代劇なのです。それらが現代のドラマそのままであるから、とりたてて戦意高揚とも感じない。国策映画では、徹底した理想が描かれるので、却ってその建前から漏れる本音に説得力のあるドラマがある…というのが見所なのですが、これは至って素の現代劇です。まったくの素です。コメディです(東宝と比べるとよく分かりますが松竹はこの鷹揚さが売りですねえ)。

さてこの現代劇、可笑しい。いろいろと変。シナリオがとても上手というか。織田作之助ってシナリオも書けるんですね。
変わり者軍医佐野周二、イケメンなもんで出会う女出会う女すべてを惑わします。しかしそんな女たちの気持ちには気付きもしません。彼が考えていることはただ虚弱児童のための診療所を創設する企画のみ("彼女の發言"('46)でも教育論が出ましたが、戦中世代は子供を大切に考え、国の未来についてビジョンを持っていたようです)。
せっかちに走り回って女振り回して…これはこれで結構なだめんずです。無意識タラシ。この男の突っ走りを生ぬるく見守るとまぁ可笑しいこと。
ロマンスもしめやかには行きません。彼に惹かれる女たちの心情は軽やかに乾いたタッチで、そして見合い相手の田中絹代とのロマンスはもはや滑稽な様相を呈します。
多数のキャラクターの扱い方は既に川島雄三節ですね。
またピアノを使った音楽、挿入されるクラシックも良いですねぇ。大阪のあんなレコード屋なんて行きたいなぁ。なお関西が舞台なのにお国言葉はレコード屋の娘さんくらいでみんな山手言葉なのは不満。
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